「愛読書は?」と質問する不毛な新卒採用を、日本人が始めてしまったワケ:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
愛読書はなんですか?――。就職採用試験で、こんな質問をする面接官が増えているという。そもそも、なぜ愛読書を聞くのがダメなのか。背景にあるのは……。
引き継がれてきた「戦前の働き方」
先進国といえども、それだけ貧しい子どもが多いのかというと、そうではない。社会に巣立つ日が近い高校生くらいの子どもの場合、バイトやインターンなどの「就労経験」は、社会勉強であるとともに、就職活動をする際に立派なアピールポイントになるのだ。
日本もこのような考え方が広まれば、面接官が「愛読書は?」なんて不毛な質問をしなくて済む。もちろん、日本ではいまだに「高校生は勉強と部活をしていればよし」とか「バイトをしたら勉学を差し障りがある」みたいな価値観が根強いので、企業側がいきなり採用でバイト経験を重視なんて言ったら、教育現場から「子どもたちの学びの自由を奪うのか」とか大騒ぎをする。
まずは政治の力で、教育現場での「学生のバイトは悪いこと」という扱いを変えていく。高校3年間、放課後を土日を部活にささげた学生だけを「よく頑張って続けたね」とチヤホヤするのではなく、放課後や土日にバイトを続けていた学生も「この経験が社会人になっても生かせるね」と学校側に認めさせる。正式に部活やボランティアという課外活動と並列にするのだ。
「そんな無茶苦茶な」とあきれるだろうが、それくらい無茶苦茶なことをしないと、90年間に引き継がれてきた「戦前の働き方」の呪縛から逃れることはできない。
「無茶だ」「現実的ではない」「もっと議論を」と叫び続けるだけでは、もはやこの国は前に進むことができないのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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