「売り上げがゼロになった」 埼玉県の町工場が、畑違いの医療分野でヒット商品を生み出せたワケ:世界のスタンダードへ(3/3 ページ)
埼玉県の小さな町工場から医療分野における「世界のスタンダード」が誕生するかもしれない。ミニ四駆のタイヤ製造で一世を風靡したものの、ブームが去り、売り上げはゼロに。そこから、畑違いの医療分野にて、町工場の強みを生かした製品をヒットさせた。現在はこんにゃくで模擬臓器を作っているという。売り上げゼロから立ち直った町工場、どんなストーリーがあったのか。
こんにゃくから「厚揚げ」が? 試行錯誤の2年間
「全然形にならなくて、どうしようか悩んでいた時に1週間くらい放置していた大量のこんにゃくをなんとなく触ってみたんです。そしたら、ちぎれず縫えるくらい強くなっているのに気付きました」(高山社長)
天日干しと冷凍を繰り返すと繊維が変質する。ただ、最終的には「厚揚げみたいなもの」が生まれただけでこれも失敗作だったという。そこから数千パターンほど混ぜるものを変えて試す日々が続いた。
17年、電気メスなどで腫瘍の摘出や剥離などが体験できる模擬臓器が完成した。血管やリンパ管、腫瘍なども全てこんにゃくで再現した。9パターン用意し、価格は税抜き2500〜8000円。安価で、さまざまなパターンの練習ができる模擬臓器。さっそく売り出してみたものの、またも全く売れなかった。なぜか?
町工場の限界
いい製品を作っても、営業やマーケティングができる人材が足りていなかったのだ。町工場の限界を感じ、模擬臓器をメイン事業とする新会社KOTOBUKI Medicalを立ち上げる。最初は全く売れなかったが、徐々に医療機器メーカーが、手術機器サンプルのデモンストレーションを医師にする際に使用してくれるようになったという。そのほか、個人で購入する医師も少しずつ増えてきて、模擬臓器は売り上げの約65%を占めるほどに成長した。
今まで作ってきた製品は、臓器の一部を再現したものだったが、現在は、肺や胆のうなど特定の臓器の開発を進めているという。3Dプリンターで血管、肺、気管支の型をそれぞれ作り、それを組み合わせて液状のこんにゃくを流し込み固めて形にする。
「ここまで形になれば現場でも練習用に使ってもらえるのではないかと思います。手術の練習は、『現場で覚える』が当たり前のスタイルでした。実際に現場で1からやってみる前に模擬臓器を触って、動作の確認や臓器に対する不安が軽減された状態が作れるといいなと思っています」(高山社長)
模擬臓器に投資をして手術の腕を上げるという考えはまだまだ浸透していない。道具があって、手ごろな模擬臓器があれば、練習ニーズも増えると高山社長は考えている。まずは、来月の学会で肺、胆のう、子宮の模擬臓器を発表する予定だ。
将来的には海外展開も視野に入れているという。生活に根付いた商品やサービスの場合は進出国の法律や文化などを考慮し、ローカライズさせていく必要がある。臓器であれば、その心配も不要。小さな町工場の模擬臓器が、世界のスタンダードになる日がくるかもしれない。
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