コストコと並ぶロードサイドの“雄” 知る人ぞ知る鮮魚チェーン「角上魚類」が急成長している理由:長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)
関東を中心に22店を展開する鮮魚専門店の「角上魚類」。コロナ禍でも業績が伸び続け、1日に1万人もの顧客が訪れる店舗もある。強さの秘密を創業者に聞いた。
“四つの良いか”を重視
今から20年ほど前、柳下氏は社訓ならぬ“社心”と呼ぶ、顧客に感謝の気持ちを伝える理念を定めた。社心は「買う心 同じ心で売る心」と表現される。つまり、常に「お客さま目線」で仕事をするということだ。
具体的な売り場づくりでは、“四つの良いか”を大事にする。「鮮度は良いか」「値段は良いか」「配列は良いか」「態度は良いか」に基づき構築される。その1つでも欠けると、商売はうまくいかないと柳下氏は力説する。
値段に関しては、独特のシステムがある。バイヤーが、店頭価格とその店が1日に売る数量を決定するのだ。新潟と豊洲の市場に6人ずつバイヤーを派遣。早朝の市場に並んだ魚の水揚げ量と価格を見て、バイヤー同士が携帯電話で連絡を取りつつ、その場で店頭価格と販売数を決めていく。例えば、サンマが小平店50箱、川越店40箱、といった具合だ。もっと小規模な店なら20箱の場合もある。
同じ魚種の値段を、新潟と豊洲で比較して、安価な方を仕入れるといった調整も行う。
魚という商品は、海が荒れると漁船が出ない。また、突然豊漁になったり不漁になったりと、定価が決められない。豊漁なら安くなるし、不漁なら高くなる。
不確定要素が多い魚は、その日に市場に行かなければ、何を仕入れるのがベストか、把握できないのだ。ペットボトルに入った飲み物のように、「今日売れたから、明日もっと売れ」といった計画生産が難しい。
ところが、スーパーなどでは、逆にお店が店頭の売れ行きを見て、バイヤーに発注するので、どうしても、サバ、マグロ、サンマ、スルメイカなどといった、ありきたりの売れ筋商品ばかりが店頭に並ぶことになる。スーパーでは鮮魚が売れなくて困っている店が多いが、店頭の動きを重視するあまり、売り場が面白くなくなっている。魚嫌いの人が増えて消費が減退していると結論付けるのは早計だろう。
どうして柳下氏はここまで顧客第一の考えを貫くのか。柳下氏は社長を継ぐ前の修業時代、小さな寺泊の町内で魚を売るだけでは経営が成り立たないので、魚を入れた籠を背負って列車に乗り、長岡、三条などの都市にある魚屋へと売り歩いていた。服が魚臭くなり、冬は凍えるような積雪の道をかき分けながら、やっとたどり着いた得意先で、「今日は買うものはない」といわれ途方に暮れて引き返す日もあった。
それだけに、寺泊に鮮魚店を開いて、顧客が自分で車を運転して買いに来る光景を目にした時には、本当に「お客さまは神様だ」と感謝の気持でいっぱいになったという。
81歳になった柳下氏は、角上魚類ホールディングスの会長兼社長を務めているが、グループ会社である角上魚類の社長職を長男の浩伸氏に譲って会長になっている。2〜3年後には引き継ぎが終わって、代表取締役からも退く予定だ。しかし、その前になぜ社心に表される精神に到達したのか。社員全員に伝えていきたいと切望している。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
お知らせ
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駅弁といえば、かつては駅や列車内で買って食べる、列車旅に欠かせないものだった。それが今やスーパーでも見かけるほどに、日常的で身近な存在となっている。
元は「駅の駅弁」だったのになぜ、駅を離れて販路を広げることができたのか?
列車の高速化やモータリゼーションの煽りを受け、さらにコロナ危機にも直面し、駅で売れない状況に追い込まれながらも生き残る、駅弁の謎に迫る一冊。
◆「駅で売れない駅弁」だった?「いかめし」ヒットの理由を探るべく、いかめし阿部商店・今井麻椰社長にインタビュー!
◆コラム「駅弁はなぜ、高いのか?」など
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