なぜOfficial髭男dismとあいみょんはランクインしないのか:Spotifyのランキングから見る、日本アニメの海外人気(2/3 ページ)
Spotifyが発表した「過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」をみると、国内外のランキングで共通してランクインしているのはYOASOBIの「夜に駆ける」のみ。その要因は何なのか。
2――なぜOfficial髭男dismとあいみょんはランクインしないのか
サブカルチャーに精通する読者の中には、既にピンとくる人もいたのではないだろうか。海外での再生ランキングにランクインしている楽曲のその多くが、日本のアニメ作品とタイアップしているのである。表3は、表2の楽曲とそれぞれのタイアップしたアニメ作品を整理したものである。2位の「Tokyo Drift」と8位の「夜に駆ける」以外全てがアニメ作品とタイアップしているのである。
日本でもブームを起こした『東京喰種トーキョーグール』や『呪術廻戦』は海外市場においても人気コンテンツであり、特に『呪術廻戦』は、世界で約1億人が視聴登録するアニメコンテンツ配信サービス最大手のクランチロールが主催する、200以上の国・地域から約1500万人のファンが投票した「Crunchyrollアニメアワード」(2021年2月19日)においてアニメ・オブ・ザ・イヤー(大賞)(※2)に選ばれるなど今最も勢いのあるコンテンツの一つである。
表3にて、7位にランクインしている『僕のヒーローアカデミア』も、表4のNPD BookScan Top 20 Adult Graphic Novels 2020(2020年度 北米で最も売れた大人向けグラフィックノベル)において、年間売り上げ1位となっている。同ランキングはアメコミ(アメリカンコミックス)の代表とされるマーベルコミックス(※3)やDCコミックス(※4)の独断場であるが、それらの作品を抑え同タイトルは20位以内に9つもランクインしている。
もちろん日本で2700億円の経済効果(※6)を生んだ『鬼滅の刃』についても、その人気は世界規模であり2021年5月現在ランキング3位の「紅蓮華」が起用されている『鬼滅の刃 無限列車編』は世界興行収入が517億円を超え、スペインでは初週興行収入ランキング1位、米国では外国語映画のオープニング興行成績で歴代1位を獲得している(※7)。
次に、表3にて4位・5位にランクインしている「シルエット」「ブルーバード」は共に『NARUTO−ナルト−疾風伝』のテーマソングとして起用されていた。同作品は海外市場で最も人気のあるアニメといわれており、放送していたテレビ東京ホールディングスにおけるアニメ事業のライツの売上において姉妹作品である『BORUTO』と共に売上高と粗利益の1位と2位を占めている(※8)。コミックスも2021年2月現在で海外累計発行部数は9700万部を超えている。
最後に、表3の2位にランクインした「Tokyo Drift」はアニメ作品ではないが、洋画の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(原題: The Fast and the Furious: Tokyo Drift )のメインサウンドに起用されていた。同シリーズは2001年から続く人気カーアクション映画で、日本のファンからは『ワイスピ』という愛称で親しまれている。『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』は日本が舞台となっているため、同曲は15年前にリリースされたものの、エキゾチックなメロディと日本語の歌詞が使われており、いわゆる“クールな日本の曲”の代表として認知している外国人も多いようである。
(※2)https://www.crunchyroll.com/animeawards/winners/index.html
(※3)ニューヨークに本社を置く漫画出版社。アイアンマン、スパイダーマン、キャプテンアメリカ、アベンジャーズなどアメリカン・コミックスを代表するスーパーヒーローの多くを生み出した。現在はウォルト・ディズニー・カンパニーの傘下。
(※4)カリフォルニアに本社を置くアメリカで最も歴史のある漫画出版会社の一つ。スーパーマン、バットマン、アクアマン、ジャスティス・リーグなどのヒーローが活躍するDCユニバースを展開している。DCコミックスを展開するDCエンターテインメントは、現在ワーナーブラザーズの子会社。
(※5)FULL YEAR 2020 NPD BOOKSCAN TOP 20 ADULT GRAPHIC NOVELS(2021/01/20)
(※6)時事ドットコムニュース「「鬼滅」経済効果、2700億円 人気「全集中」―第一生命経済研」(2020/12/04)
(※7)ITmedia「映画「鬼滅の刃」、世界興収517億円突破 来場者数は4135万人に 今後は英国やオランダでも公開へ」(2021/05/24)
(※8)株式会社テレビ東京ホールディングス2019年3月期通期決算補足資料
関連記事
- 「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる?」――『ジャンプ』伝説の編集長が、数億円を費やした『ドラゴンボールのゲーム事業』を容赦なく“ボツ”にした真相
鳥山明氏の『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だったマシリトこと鳥嶋和彦氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイに対して、数億円の予算を投じたゲーム開発をいったん中止させた。それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。“ボツ”にした経緯と真相をお届けする。 - 「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか
技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢がやって来るのだろうか。白物家電や邦画が追い抜かれたように、「日本のアニメ産業」も負ける日がやって来て……。 - 日本のアニメは海外で大人気なのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が米国でもヒットしている。このほかにも日本のアニメ・マンガは海外市場で勝負できているのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか。その背景に、構造的な問題があって……。 - “鬼滅缶”で大成長? 3週間で5000万本を売ったダイドーから学ぶ「コラボ成功のヒケツ」
大ヒット中のアニメ、「鬼滅の刃」とコラボ企画を行った企業の決算が徐々に開示されてきた。今期には「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の公開に合わせたコラボ企画が相次ぎ、業績を回復ないしは成長させる企業が現れ始めている。
Copyright © NLI Research Institute. All rights reserved.