今年一番売れたクルマは? ビッグヒットの裏にあるカラクリ:鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(3/3 ページ)
2021年がもうすぐ終わりになろうとしています。この原稿を手掛ける12月上旬では、まだ1年間の集計は出ていませんが、今年のベストセラーカーは、ぼぼ決まりでしょう。それは、トヨタの「ヤリス」です。しかし、今回のヤリスのビッグヒットには、あるカラクリがありました。
昔からトヨタの得意技
こうした手法は、別に目新しいものではありません。特にトヨタは、昔からの得意技です。例えば、1969年から33年間にわたって年間販売ランキング1位の座を守り続けてきたカローラを振り返ってみましょう。カローラは、セダンから始まりましたが、ステーションワゴンやクーペ、ハッチバックなど、時代時代のニーズに合わせてバリエーションを用意して、数字を積み重ねていました。
残念ながら、2010年代は「プリウス」や「アクア」といったハイブリッド専門車が人気を集めたため、カローラは王者ではなくなってしまいました。しかし、今、カローラの反撃が始まっています。それが21年9月に発売された「カローラクロス」です。
これも名前の通りに、カローラのプラットフォームを使った派生SUVです。このカローラクロスが発売される前の時点で、カローラの月間販売ランキングは3〜5位をうろうろとしていました。ところが、発売後2カ月となる21年11月には1位を獲得したのです。単月での1位獲得は20年3月以来となります。
トレンドとなるSUVを追加して、20年と21年の王者を獲得したのがヤリスでした。そして、22年は、同様の手法を採用したカローラがもしかすると久しぶりの年間1位を奪取するかもしれません。
トレンドをうまく活用したブランドが勝つ。それが近年の販売ランキングと言えるでしょう。
筆者プロフィール:鈴木ケンイチ
1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。
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