2021年乗って良かったクルマ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/8 ページ)
年末恒例の乗って良かったクルマだが、2021年の新型車のデビューは、マツダは1台もなし、スバルはBRZがあるけれども、来年のエントリーにしたい。もちろんGR86も同じ。スバルWRX S4は公道で乗っていない。結局は、トヨタのMIRAIとランドクルーザー、アクアとカローラクロスというトヨタ大会になってしまった。どれも数日以上借り出して、1000キロくらいは走ってきた。
アクア
先代アクアは、最も安価なHEVとしてデビューし、HEVの普及を担う戦略モデルであった。目的は安いことだったのである。しかし、2代目の担う役割はだいぶ違う(記事参照)。今後、アクアが所属するBセグメントは、HEVが当たり前、場合によってはBEVとも戦う必要が出てくる。新型アクアのモデルライフの間には、そのHEVも、48ボルトのマイルドハイブリッドや、シリーズハイブリッドといった、トヨタのTHS2より安価なシステムが増えることは明らかで、アクアはそれらと戦わなくてはならなくなるだろう。
という背景を置けば、シリーズ・パラレルというハイエンドの仕掛けを持つHEVは、当然価格で防衛をしつつも、高級である価値もまた示していかなくてはならない。
トヨタはヤリスとアクアの性格を分けることで、それぞれの役割分担を図った。ヤリスには高いアジリティを持たせ、欧州の小型車のような切れの良い走りに仕立てた。一方でアクアには、穏やかで上質な走りを与えたのである。
一例としてホイールベースを挙げる。ヤリスの2550ミリに対して、アクアは50ミリ延長した2600ミリ。セオリー通り直進安定性が向上し、回頭性は穏やかになり、リアの居住性も向上している。もちろんどちらもTNGA世代のGA-Bプラットフォームを分ける血縁関係にあるので、基礎的な運動性能は高い。
街乗りで示す印象には、数値を証明するようにちゃんと差が付いており、アクアはどこまでも落ち着いた、穏やかで柔らかな乗り心地を提供する。家族の道具として考えたとき、この平和な感覚は実に勘所を押さえたセッティングで、多くのニーズを無理なくカバーすると思われる。「足るを知る」という世界観の中では「これ以上は要らない」と思えるかもしれない。
もちろん人の行動の原動力となる欲深さを失うことへの恐れが脳裏をかすめなくなるとすれば、それはそれで少し考えた方がいいかもしれないが。人は時に相容れない正解を同時に持つものだと思う。
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