岸田首相も同調した「自社株買い規制」、実現すれば明治時代に逆戻り?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
“株もたぬ首相”、岸田文雄氏による金融市場のへ締め付けがとどまるところをしらない。岸田氏は14日の衆議院予算委員会において、企業が実施する自社株買いの質疑応答の場面で「自社株買い規制」を「重要なポイント」としたうえでガイドラインの制定に言及した。
「新しい資本主義」が数十年の議論を覆す?
明治時代から長らく禁止であった自社株買いは、1970年以降見直しの機運が高まり、90年代のバブル崩壊後から規制緩和の方向に舵(かじ)を切っていくこととなる。現在のように自社株買いが自由に行えるようになったのは、2001年の商法改正からだ。自社株買いをめぐっては、バブル崩壊による企業価値の行き過ぎた過小評価に対しても一定の効果があることもあり、法による規制から経営者の責任において実行されるという形で徐々に移譲されてきた。
上場企業が行う自社株買いによって購入された株式は、一般的にその上場企業に保有され続けるのではなく、償却されることになる。これは、自社株買いが配当と同じく一種の株主還元施策の1つとされているためで、市中に出回っている株を償却することによって一株あたり利益(EPS)や、株主資本利益率(ROE)が改善する。これらの財務指標が改善することで、現在の株価が償却前と比べて相対的に割安となるため、株主の利益向上に寄与するというわけだ。
他にも、株式交換でのM&Aや、ストックオプション行使に際して自社株買いが活用される事例もあり、事業遂行において第三者割当増資のような既存株主にとってマイナスとなることもある施策以外の選択肢を経営層に提供する意味でも、自社株買いには意義がある。
自社株買いの自由化から20年、「新しい資本主義」は数十年にわたって重ねられてきた綿密な議論を一瞬でひっくり返すほどの権威性があるといえるのだろうか。これについて筆者はやはり疑問を抱かざるを得ない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
Twitterはこちら
関連記事
- “人類未到のお金持ち”イーロン・マスク、個人資産がトヨタ自動車の時価総額上回る
世界一のお金持ちといえば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が長らくその象徴といえる存在であった。そんなビル・ゲイツ氏は、今年4月に公表されたフォーブスの世界長者番付2021年版で4位に位置しており、「世界のお金持ち」の構図も随分と様変わりしたようだ。 - 賃金減少、日本の家計に世界的なインフレが直撃、「悪い円安」も追い討ち?
世界的なインフレの影響が、日本の家計に大きな打撃を与える可能性がある。需要によらない供給側の要因で起こる物価上昇は「コストプッシュインフレ」、通称「悪いインフレ」と呼ばれている。 - 来年から「一部上場企業」は無くなります……呼び名変更「プライム」化で何が変わるのか
東京証券取引所は2022年4月4日に、これまでの「東証第一部」「東証第二部」「マザーズ」「ジャスダック」といった市場区分から、「プライム」「スタンダード」「グロース」という新たな市場区分へ移行する。「現在、東証一部に上場している銘柄がスタンダート市場に入ってしまうのか」という点と、「東証第一部に連動している株式指数のTOPIX(東証株価指数)はどうなるのか?」という点に注目したい。 - 日本の金融所得税、実は庶民にとっては世界屈指の重税
岸田文雄総理は、金融所得課税を当面の間は引き上げない方針を述べた。この「当面」という言葉尻をとらえると、じきには増税するということになる。しかし、足元でささやかれている一律25%への増税は、本当に必要なのだろうか。実のところ日本は、我々一般人にとっては金融所得税がとても重い国でもある。増税するにしても制度設計から抜本的に見直す必要がある。 - 立民「年収1000万円以下所得税ゼロ」 1番トクするのは高収入の独身ビジネスマン?
衆院選マニフェストの中でも目を引くのが、立憲民主党の掲げる「年収1000万円未満世帯の所得税免除措置」だ。立憲民主党の枝野代表は「経済を良くするには、分厚い中間層を取り戻し、あすの不安を小さくすることが大事」と発言しており、実現すれば家計の負担が減少すると巷でも歓迎する意見も散見される。 - “落ち目”の日経平均、任天堂の採用でも復権は厳しいワケ
ノーベル文学賞に毎回有力候補として名前が挙がる村上春樹氏と同じように、日経平均にも長年組入が待望されている“有力候補”がいる。その中でも、今回日経平均にようやく組み入れられることとなった「任天堂」は、毎年の銘柄入れ替えのタイミングで有力候補として名を挙げられてはその座を逃し続けてきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.