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不正転売について考えてみたどのように転売ヤーにとっての魅力をなくすか(5/5 ページ)

メルカリをはじめとする「二次流通業者」の存在感が大きくなっている。 しかし、残念ながら二次流通業と消費者との関わりポジティブな側面だけでなく、ネガティブな側面もある。その代表が「不正転売」だ。本レポートでは、メルカリとUSJの転売対策など、企業の事例を取り上げる。

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ニッセイ基礎研究所
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4――なぜ転売品が欲しいのか

 「正当な価格で手に入るはずの機会を失ってしまう消費者」と「欲しいと思っている消費者に商品が行きわたらない小売業者」がいるなど、「不正転売」によって多くの人々が不便さを被っているにもかかわらず、どうして不正転売はなくならないのだろうか。理由は明確で、不正に価格が吊り上げられた商品を買う人がいるからである。では、なぜそのような商品を買うのだろうか。もちろんさまざまな理由があるとは思うが、本レポートでは筆者の専門であるオタク(※9)の消費心理から考察したいと思う。

 そもそもオタクが消費するコンテンツの多くはぜいたく品と同じ性質を持っている。日用品とは異なりキャラクターグッズの多くが生産数に限りがあるものが多い。また、供給数が少ないほど希少性を持つ「価値のあるもの」となり、「レア」なものとして、ブランド品同様、社会的に見せびらかしたくなったり、確保した時の満足度が高くなる(※10)。オークションを例に挙げれば分かりやすいが、キャラクターグッズやアイドルグッズなど生産の少ないものや地域限定販売のものに関しては、定価よりも高額に取引される傾向がある。Worchel, Lee and Adewole(1975)(※11)の研究に準拠すれば、数量が少ないことで商品自体の評価が高まるため、生産数量が少ないということ自体が当該製品の価値を上昇させる要因になりえるのである。そういった希少価値のあるグッズの購買機会を失わないことがオタクが自身の満足を充足していく要因となるのである。

 言い換えればオタクは購買機会を逸することを大変嫌う。入手ができないということは自身のコレクションのピースを欠くことを意味するからである。加えて他人は持っているのに自分は買えなかったという劣等感を抱くことになる。そのため自分の予算の中で買うことができる自身が欲しいと思ったものを入手できた上で、安心感や満足感を得ることができる。

 オタク気質やコレクター気質のない読者のために補足すると、オタクは手に入れたことで得られる高揚感を得るためにグッズを収集している一方で、入手したことによる安心感を求めている側面もある。欲しいものの発売が決まると、そのグッズが自身の手元に来るまで不安に駆られ、そのグッズの事しか考えられなくなる。それはグッズを待ち遠しく思っているというよりも、自身の手元に本当に来るのかという「不安」の方が大きく、グッズが発売されること自体がストレスとなるのである。そのため、いざ手に入るとまずストレスから解放されると感じるオタクも多い。買う予算があるのに売り切れ等で購入できない時、その感情は後悔や妬みになるのである。このようなストレスや不安が生まれるのも、彼らが欲しいと思うものが希少であるが故のことであり、誰もが手に入れることができる変哲もないグッズを手に入れても高揚感にはつながらないのである。

 また、トレーディングカードやピンバッジなどその価値が変動しやすいグッズにおいては、後々価値が高騰する恐れがあるため、正規取引価格でなくともその時買わなかったことで生じる未来の損失までも考慮して、購入に踏み切ることもある。また、時間や労力をかけて探し回るくらいなら、目についた時に高くてもまずは確保しておくという一期一会の性質が、オタク特有の消費行動であると筆者は考える。このような背景から確実に手に入るならば入手手段は関係ないと考えるオタクも少なくはなく、不正転売品を出品している転売ヤーが存在する意味ともなっている。

 一方でこれは見落とされがちな事実であるが、オタク自身が転売を行い、これで生計を立てる者も多く存在する。実際に彼らは対象となるコンテンツが好きだからこそ、そのコンテンツのことを熟知しており、また他のオタクのニーズを理解することもできるので、自分が購入するついでに他のオタクに売るための分を購入することもできる。「転売をするようなオタクはオタクではない」といったイデオロギーは、理想論者の考え方で、オタクは転売をしないというきれいごとは実際には成立せず、転売ヤーの中にはオタクもいると考える方が妥当であろう。

(※9)筆者のオタクの定義は(1)「自身の感情に「正」にも「負」にも大きな影響を与えるほどの依存性を見出した興味対象に対して時間やお金を過度に消費し精神的充足を目指す人々。」と(2)「他人からオタクであるとレッテルを貼られた人々」の2つの側面があるが、ここで言うオタクは、前者のオタクの消費性について。

(※10)もちろんオタクの全てが消費性オタクではなく、グッズ収集をしていない者もいる。また、見せびらかしという行為に関しては、マウンティングや同担拒否(同じものが好きな人を嫌う)などコミュニティーや他のオタクを意識して行われるため、他のオタクと一切関りを持たないオタクは見せびらかすという行為はしないし、顕示的消費が自身の承認欲求を充足するわけではないと、留意したい。

(※11)Worchel, Stephen., J. Lee and A. Adewole(1975) “Effects of Supply and Demand on Ratings of Object Value,”Journal of Personality and Social Psychology, No.32, 906-914.

5――最後に

 大竹(2016)(※12)が言うように不正高額転売は経済学の視点から見ると、価値を生み出す行為であり、価格を高騰させることは正当な行為と捉えることもできる。また、企業側から見ても商品は完売して在庫を抱えるより良いという見方もできる。しかし、企業が対策をとらない限り消費者は企業が転売を容認していると捉え、ブランド(コンテンツ)に対するロイヤリティー低下につながりかねない。

 一方でグッズの希少性が無くなるほどファンにとっては魅力が逓減し、購買意欲を欠いてしまうこともある。コンテンツやブランドを支えるのはロイヤリティーの高い顧客であり、彼らにとって希少性や収集欲が提供されることは購買意欲を継続するモチベーションにつながるため、日用品の様にいつでも手に入るという事がプラスには働かないことも事実である。何より、例えばテーマパークのグッズならクリスマスシーズンの商品はクリスマス前には売り切りたいわけであり、全ての来園者の購買機会に配慮して商品を発注した場合、売れ残り在庫としてのリスクにもなる。しかし、生産数が少ない故に一般消費者まで商品が出回らないという事はシェアの拡大(ファンの獲得)にはつながらず、かつ本当に欲しい消費者を二次流通業者に向かわせてしまうという結果も生みかねない。このような複雑なオタクと一般の消費者が混在する市場の中で、企業は不正転売という大きな問題に対して真摯な対応が求められている。

(※12)大竹文雄「チケット転売問題の解決法」(日本経済研究センター ウェブサイト 大竹文雄の経済脳を鍛える)2016/09/01



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