そんなに学歴フィルターは「悪」なのか マイナビ「大東亜」騒動で見落としがちな視点:「学歴不問」は「実力不問」ではない(4/5 ページ)
マイナビの失態で話題になった「学歴フィルター」。なんだかんだいって存在する「必要悪」ともいえる存在だが、筆者は今回の騒動で見落とされている視点があると指摘する。
同社の「学歴を重視するあまり同質な人間ばかり集まってしまっては、新しいアイデアも生まれない」との姿勢は広く支持され、結果的に「就職人気ランキング」におけるソニーの位置も押し上げることとなる。採用競合となる他の大企業も、同様に学歴不問の姿勢を打ち出さざるを得なくなった。これにより大卒就活は、表面的には「学歴不問の自由競争時代」に入ったかのように思われた。
しかし、蓋を開けてみれば当のソニーにおいても、採用実績上位校は旧帝大や早慶クラスであったことが判明。「学歴不問の看板を信じて応募した、上位校以外の学生の時間を無駄にしたのでは」と批判を呼ぶことになってしまった。ソニー側はその後、「学歴不問のウソとホント」と銘打った経済誌のインタビューにおいて「結果として、東京の有名大学の方が多く入るということはあるかもしれない。でも、それは、自由競争の結果なのだ」と釈明している。
確かにソニーの試みは、大企業の新卒採用において旧来型の指定校制から脱却し、難関大学以外にも採用の門戸を開かせる効果はあったかもしれない。しかし一方で、自由競争のイメージが拡大解釈され、「応募者の実力までも不問」と誤解されてしまったことは不幸であった。
人気企業では倍率「2750倍」も
そもそもソニーに限らず、人気企業の応募倍率は押しなべて高いものだ。大学の入試倍率であれば、よほどの有名校でも10倍を超えることはまれであり、医学部の一部日程でたまに100倍程度を記録して話題になるくらいだろう。学生の多くは入試に至るまでの普段の成績や模試の点数などで、自身の実力と、志望校の難度を把握できているため、過当競争にはなりにくいのだ。
しかし企業の入社試験となると、倍率のけたが上がる。入社難度に関する指標はないし、皆が名前を知る大手企業が毎年多くの新卒を採用すると知れば、「自分にもチャンスがあるかも」と期待し、深く考えずに応募するということもあるだろう。従って、有名企業であるほど全国から応募希望者が殺到し、応募倍率は数百倍になることはザラなのだ。
あくまで正確な数値が確認できるデータとして、筆者がよく引き合いに出すのが、『就職四季報2016年版』に掲載された、内々定者数と正式応募者数を基に算出した倍率ランキングだ。
これによると、食品メーカー「明治」の15年度新卒応募者倍率は、事務系総合職の応募者約1万1000人に対して内々定者数がわずか4人。倍率はなんと2750倍を記録した。同年は乳業大手の森永乳業が533倍、味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)が376倍、ヤクルト本社が318倍――など、倍率ランキングのトップ10において半分を食品関連の会社が占めている。いずれも商品のイメージがつきやすく、ニーズが途絶えることのない安定感が人気のポイントであろうが、数千〜1万人超の応募者に対し、内々定者は数人〜数十人と非常に狭き門なのだ。このような状況下において、選考初期段階で大まかなふるい分けを行うには、学歴フィルターしか手段がないというのが現状なのである。
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