2021年の自動車販売隠れトレンド、箱型&スライドドア 5年前のモデルがランキング上位に:鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(3/3 ページ)
今年は「ヤリス」の年だったと言えるでしょう。では、今年のトレンドは何だったのでしょうか? 表面的に見えるのはSUVです。とはいえ、実際に売れているクルマを並べてみると、また違ったトレンドが見えてきました。
箱型&スライドドアは、何がよい?
では、箱型&スライドドアは、何がよいのでしょうか?
特徴としていえるのは、ボディが箱型なので室内空間が広いということ。スライドドアは開口部が大きいので乗り降りも楽。居住性という点では、クルマの数あるスタイルの中でトップといえます。ですから、昔から多人数を乗せるミニバンに採用されているスタイルです。そして、子育てファミリーにも強く支持されていました。
一方でデメリットもあります。箱型でボディが大きいので、空気抵抗も大きく、さらに重量もかさみます。背が高いので重心も高くなります。その結果、走行面は苦手。遅いし、カーブでもフラフラしがち。燃費性能的にも不利です。
居住性はいいけど、走りは苦手というのが箱型&スライドドアの特徴です。そんなクルマが売れるようになったのは、もしかしたらコロナ禍の影響も大きいのかもしれません。「公共交通が怖いから、外出にクルマを使うことが増えている」というアンケート結果は、JAFをはじめ、いくつかの調査で見ることができています。
そのクルマでの外出に、家族一緒に出掛けるというのであれば、やはり走行性能よりも居住性のよい箱型&スライドドアが選ばれるのも当然のことかもしれません。そもそも県をまたいでの遠出は避けるという雰囲気もありますから、走行距離が短くなって、走行性能の重要度も下がっているのでしょう。
そういう意味で、コロナ禍が納まるまでは、箱型&スライドドアの人気は続くのかもしれません。
筆者プロフィール:鈴木ケンイチ
1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。
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