「人口減は技術革新で乗り越えられる」という考え方が、ダメな理由:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
日本の人口減少に歯止めがかからない。『朝日新聞』が試算したところ、政府が想定していたペースよりも7年も早く少子化が進行しているわけだが、この問題はどうすればいいのだろうか。「技術革新でなんとかなる」という考え方もあるが……。
楽観論は30年ほど前から
毎年、鳥取県と同じ人口が自然に消える日本は、そんな人類の脅威にちょっとばかし早く直面しているだけの話なのだ。
と口走ると決まって飛び出すのが、「人口がちょっと減っても、日本が誇る高い技術力でカバーできるのでそこまで不安にならなくていい」という楽観論だ。ロボット、AIなどのテクノロジーが普及すれば、労働力不足を補い、あふれかえる高齢者にも優しい社会が実現できるので問題ナシというわけだ。
実際、日本の経済人や有識者は、30年くらい前からこの楽観論を繰り返し唱えている。本連載で紹介したように日本では50年前から現在のような状況になることが正確に予測できていた(参照リンク)。そこで解決策として主張されていたのが、「外国人労働者の受け入れ」と「技術革新」の2本柱だったのだ。
例えば、16年に厚生労働省が、経営者や有識者を集めて、35年を見据えた新しい働き方を検討する「働き方の未来 2035」懇談会を開催したが、その報告書にも以下のような提言がなされている。
『この技術革新は、日本経済にとって大きなチャンスでもある。少子化、高齢化による人口減少、労働人口の減少、過疎化という日本が直面している課題の解決に大きく寄与し得るからだ』(働き方の未来 2035 報告書)
「確かにウチの社長もよく“人口減少はDXで解決だ”みたいなこと言ってたな」と納得する人も多いと思うので、このようなことを指摘するのは大変気が引けるが、そのように「技術力があればなんでもうまくいく」という根拠のない技術崇拝を何十年も続けてきたから、日本経済がここまでダメになってしまったのである。
日本という国を客観的に俯瞰(ふかん)すれば、技術革新で人口減少を乗り越えることは不可能だ。どんなにAIやロボットが飛躍的に進化を遂げたとしても決して、「消費者が増える」ことにはつながらないからだ。
AIやロボットが社会に普及したところで、居酒屋やレストランで食事をしてくれるわけがないし、国内観光をしてGo To トラベルを利用してホテルに宿泊することもないし、初売りセールに行って衣類や生活用品を買うこともない。ロボットが人間のように人権と市民権を得て暮らすというSFの世界が実現しない限り、「消費活動」というのは、血の通った人間にしかできないのだ。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - なぜ某カフェチェーンは時給を上げないのか 「安いニッポン」の根本的な原因
アルバイトの応募が少ない――。某カフェチェーンから、このような嘆きの声が聞こえてきた。人口減少の問題もあるだろうが、なぜバイトが集まらないのか。その理由は……。 - 「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか
技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢がやって来るのだろうか。白物家電や邦画が追い抜かれたように、「日本のアニメ産業」も負ける日がやって来て……。 - サラリーマンの給料がなかなか上がらない、納得の理由
サラリーマンの給料がなかなか上がらない。世界的に見ても低迷しているので、岸田政権は賃上げをしている企業に“アメ”を与える策を打ち出しているが、効果はあるのだろうか。筆者の窪田氏は「ない」と見ている。その理由は……。 - こんなに頑張っているのに、なぜ日本だけGDPが回復しないのか
日本経済の復活がうかがえるような、データがなかなか出てこない。先進国と比べて、GDP増加率は低く、賃金も低い。多くのビジネスパーソンは懸命に働いているのに、なぜパッとしないのか。筆者の窪田氏は「日本社会のシステムがブラック企業化しているから」と見ていて……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.