単なる賃金カットに終わるのか? パナソニック「週休3日」で広がる期待と懸念:いよいよ「週休3日」の波が来る?(3/3 ページ)
パナソニックが選択的週休3日制の導入方針を発表し、大きな話題を呼んだ。これまで既に週休3日制を導入した企業もあり、働き手の多くが導入に賛成する一方で、「賃金カットで終わるのでは」などといった懸念も尽きないが……
企業側のメリット
- 離職率低下
- 求職者へのアピール材料
- 生産性向上
- 余暇時間を活用した社員のスキルアップ
社員側のメリット
- 育児、介護と仕事の両立
- ワーク・ライフ・バランスの向上
- 能力開発、スキルアップのための学習時間確保
- 感染症リスク低減
企業側のデメリット
- ビジネス機会損失リスク
- 業務停滞リスク
- 追加人員確保が必要となる可能性
- 制度改訂の手間、労務管理の煩雑さ
社員側のデメリット
- 制度内容によっては給与減少
- 制度内容によっては1日当たりの労働時間が増大
このように見ていくと、やはり導入に伴って労務管理や業務対応の仕組みを整える手間が発生することに加え、選択制にした場合、「週休2日組と3日組で同じ査定にするのか」「昇進に差がつくのか」「週休3日の人が休み中に得意先から呼び出された場合はどうするのか」――といった、選択した人としなかった人との間での業務や待遇の格差をどう処理していくかがややこしく、一歩踏み出せない要因ではないかと考えられる。
週休3日制を導入するための土台とは
選択的週休3日制を「先進的な大手企業もやっている」「従業員満足度が上がりそう」といった表面的なイメージだけで導入してしまうと、「かえって出勤日の仕事が増え、思ったより大変」「週休2日の人と3日の人で格差が生まれる」「仕事がうまく回らない」「給与を下げてまでやりたくない」といったトラブルや不満に至ることは確実であろう。
週休3日制はゴールではなく、あくまで「理想の組織を実現するための手段の一つ」でしかない。導入を検討するならば、ここまで述べてきたメリット・デメリット、導入パターンなどを理解した上で、「そもそも何のために週休3日制を実施するのか」というところから慎重に検討を進めていくべきであろう。
導入に際しては、「働き方改革の取り組みがある程度進展していること」が大前提だ。具体的には、「休日が増え、担当者が休んでいても仕事が回る体制構築」「取引先への事前説明」「会議の取捨選択とオンライン化」「対面でなくともコミュニケーション可能なチャットツール導入」「各社員の週休日数を個別設定できる勤怠管理システム導入」といった準備がなされている必要があるだろう。特に取引先各社に対しては十分に周知するとともに、1クライアントに対して複数の社員が「メイン担当」「サブ担当」といった形で対応する方式とし、片方が休んでも仕事が回るようにしておくことが必要だ。
制度面においては、従来の週休2日を前提とした仕組みのまま、所定労働時間が異なる従業員の勤怠を一括で管理することは困難である。この機に、週休3日にも対応する新たな勤怠管理の仕組みと、業務配分、評価制度を構築するしかない。(「週40時間働く週休2日の社員」と「週32時間働く週休3日の社員」では、1週間当たりの業務量だと前者が多くなる。しかし時間当たりの生産性が同じの場合どう評価するか、など)
合わせて、「対象者の選定」(全員か、希望者だけか)、「どのパターンを導入するか」「通年実施するか、一定期間のみか」「副業や兼業を認めるのか」といった規定も事前に検討するとともに、導入に伴うメリット・デメリットも具体的に説明した上で、社員の意見もヒアリングしつつ、導入後のミスマッチを減らしておく必要がある。
土台を固めるのは困難かもしれないが、既に定着しつつあるテレワークと組み合わせれば、かなり柔軟な働き方が実現することもまた事実だ。積極的に学びたい意志があるが、日々の業務に追われてなかなか時間確保が難しい人や、育児や介護といった事情で仕事との両立が困難な人には朗報であろう。ぜひ導入成功した企業におかれては取り組み事例を横展開してもらい、いずれ国や自治体にも制度導入が広がっていきながら、組織の新たな魅力の一つとして意欲的な人材に選ばれる将来を祈念してやまない。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト。
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員も務める。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。
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