多くの人が勘違いしている!? 「英語を学ぶ」前に知っておくべきこと:目指せ海外赴任(4/4 ページ)
中学、高校、大学で英語を勉強したのに、ビジネスの場で活用できないことがある。どうすれば実践的な英語を身に付けることができるのか。著者のアドバイスは……。
「阿吽の呼吸」からの脱却
サバイバルとはいうものの、そのような環境を作るのは難しい。M&Aの後に役員として現地に派遣されれば、それは間違いなく「サバイバル」な環境であるが、英語で四苦八苦している間に経営統合が失敗したら元も子もない。楽天のように英語を社内公用語にしてサバイバル環境を人為的に作る方法もあるが、相当な覚悟がないとできない。ではどうするか。普段の日本語での生活や業務において、自分が意見を表明するスタイルを変える方法を紹介したい。海外赴任の際にも役立つやり方だ。
それは、何かの意思決定の場面において明確なYes/Noを表明し、それに対する理由を3つ述べるという訓練だ。まずは日本語で、そしてそれを英語に直すのだ。
先に、「日本人であれば当然理解できるコミュニケーション上の文脈や、『読むべき空気』」と書いた。日本には「阿吽(あうん)の呼吸」という言葉が象徴するように、全てをいわなくても分かり合えるという言語的・文化的な特徴がある。何らかの意思表示をする際に賛成/反対、好き/嫌いを明確にしなくとも分かり合えるのは、普段の生活やビジネスにおいても感じることであろう。
「いかがなものか」という便利な言葉もある。以前勤務していたメガバンクでは、役員からよく発せられた言葉である。明確な否認ではない。ただしそのニュアンスは間違いなく可決ではない。そしてその場の“空気”を察し、若手は役員にチャレンジすることなく案件を取り下げるのである。しかし、海外の経営においてこれは通用しない。「いかがなものか」はYesではないという意思表示であり、その理由を明示する必要がある。この理由を列挙することがポイントで、阿吽の呼吸の中に生きている日本人は、これを言語化する訓練ができていないのである。
「明確な意思表示」と「3つの理由」
コロナ下におけるイベントの開催企画があったとしよう。昨年は開催できず、クライアントから今年こそはと要望されているイベントである。自社にとっての収益機会も大きい。これに対する判断を求められているとして、自分の立場と3つの理由を明確に述べてみる。3つにこだわるわけではないが、2つではやや弱いし、4つ以上だと相手の心に残らないから、3つが適量だと考えるのである。
立場が「反対」であるとしよう。
理由(1):どんなに感染対策をしても万全ということはあり得ない
理由(2):仮に感染者が出た場合にはクライアントに多大な迷惑がかかる
理由(3):レピュテーションにも影響があり、その場合のコストは計り知れない
そしてこれを英語に直すのだ。完全訳する必要はなく、キーワードの列挙でも良い。できるだけ簡潔に表現することがポイントだ。
【Disagree.】
(1):no infection control can be perfect
(2):great inconvenience for client if patients appear
(3):reputation risk, which cost may exceed the profit
もちろん賛成の立場で考えても問題ない。一人ディベートのような感じで、賛成・反対双方の立場の理由を列挙してみても良いだろう。
繰り返しになるが、ここでの訓練のポイントは、阿吽の呼吸をいったん横に置いて、あえて明確な意思表示とそれに対する理由を言語化するというものである。英語をモノにするためには、最終的にはサバイバル環境を生き抜く必要がある。だが、このような事前訓練は、ネイティブではない日本人が明確な意思表示をするのに役に立つと思うのである。
目下、オミクロン株が猛威を奮っているが、今年は国際間の往来が少しでも復活することを願う。そして多くの日本人が海外に赴任し、サバイバルな環境で英語を身につけていってほしいと思う。
著者プロフィール
桂木麻也
インベストメント・バンカー。メガバンク、外資系証券会社、国内最大手投資銀行等を経て、現在は大手会計会社系アドバイザリーファームに勤務する。ASEANでの7年に及ぶ駐在経験から、クロスボーダーM&A及び、ASEAN財閥の動向について造詣が深い。慶應義塾大学経済学部卒、カリフォルニア大学ハーススクールオブビジネスMBA保有。
著書に『ASEAN企業地図 第2版』や『図解でわかるM&A入門』(いずれも翔泳社)がある。
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