「東急ハンズ」はなぜ追い詰められたのか コロナ前からの“伏線”と、渋谷文化の衰退:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
東急ハンズ売却のニュースは大いに話題になった。追い詰められた背景には何があるのか。コロナ前からの“伏線”に迫る。
“東急ハンズ”的な商品
カインズは、2017年にスタイルファクトリーというハンズビーに対抗するような都市型小型ライフスタイルショップを立ち上げている。「DIY」を強く意識しており、スタイルファクトリーの店に行くと、作業台や工具が陳列されている。それだけでなく、ペット用品やアウトドア用品などが並べられていて、思わず買いたくなる“東急ハンズ的”な商品が多い。現在のところ、神奈川県に2店、東京都と愛知県に1店ずつと計4店しかない。しかし、カインズとしては都心部の店づくりにノウハウがなく、攻めあぐねていた面がある。
そこで、東急ハンズの培ってきた数々の知恵が必要だった。
カインズ・広報では、「“DIY文化の共創”が目的で両社の価値観は非常に共通している。スケールメリットを追求するM&Aは戦略上一切考えてこなかった」と、東急ハンズを新たなパートナーとして迎え入れるものだと強調した。
一方の東急不動産HD・広報は、「東急ハンズは非常に重要な子会社で、東急ブランドの価値向上にも多大な貢献を果たしてきた。その上で、近年の小売業界を取り巻く環境が、少子高齢化、EC化の進行、競合他社の台頭などと大きく変化している。しかも、コロナ禍でますます加速することとなった。こうした状況下、当社グループの経営資源での再構築では、東急ハンズのお客さまへの提供価値及び事業価値の最大化を図ることは困難と判断した」と、苦渋の決断だったことをにおわせた。
これまでも東急不動産HDでは、PB商品開発強化、EC取引拡大、FC展開加速などといった施策によって、東急ハンズを支援してきた。しかし、「やはり親会社が小売業ではない、というのはどうなのか。思慮した結果」(東急不動産HD・広報)とのことだ。消費者の目線でスタートした東急ハンズだったが、小売の素人が舵(かじ)をとっても、もう限界との判断だ。
東急不動産HDはファイナンシャルアドバイザーとして野村證券を選定。入札を実施して、複数の候補先から提案の比較検討を行い、カインズをパートナーに選んだという。3月末には、東急不動産HDからカインズに全株式が譲渡され、東急ハンズはカインズの100%子会社になる。
このような経緯なので、東急不動産HDとカインズの友好的な関係は続くだろう。
ホームセンター業界では、20年のアークランドサカモトのビバホーム買収や、ニトリの島忠買収も記憶に新しく、大型のM&Aが相次いでいる。業界再編に向けて、意外なプレーヤーがよもやの企業を買収する可能性がある。M&Aの動向から目が離せない。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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