なぜクルマのボディはスチール製なのか 軽量化に向けて樹脂化が進まない理由:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
高級車などは、そのプレミアム性のためや、大型サイズゆえ重くなりがちな車重を軽減するためにアルミ合金やCFRPを併用することも増えているが、構造材としてむしろ鉄は見直されつつあるのだ。
剛性を高め軽量化と安全性の両立にも貢献
近年、衝突安全性と軽量化を両立させる素材として、高張力鋼が用いられるケースが増えている。ハイテンション鋼、通称ハイテンとも呼ばれるこの母材は、実は相当昔から存在していたが、加工性やコストの問題からクルマにはあまり使われてこなかった。
プレス加工や溶接性が通常の炭素鋼と比べて劣ることに加え、大量の鋼材を使用するクルマの場合、母材や加工のコストが販売価格に大きく影響するからである。
それが近年(といっても発端は20年くらい前になるが)の衝突安全基準や燃費規制をクリアするために利用されるようになり、むしろ最近はクルマのために新素材や製法が開発されているという印象すらある。
引っ張り強度で980MPa(通常の炭素鋼の2倍以上!)を超えるスーパーハイテンと呼ばれる超高張力鋼も開発されている。1500MPaを超えるスーパーハイテンは、剛性を高めたいBピラーなど構造材に使われるが、冷間でプレスすると高い圧力が必要なうえに割れなどが生じやすく、金型通りに成形されずに反ってしまうスプリングバックなどの問題も起こる。
そのため材料を温めてプレスする、ホットスタンプなどの生産方法が用いられてきたが、それでは設備も含めたコストも上昇してしまう。そのため素材や金型、プレス方法の工夫によってコールドスタンプでも成形できるよう開発が進められている。
クルマのプラットフォーム化が進んで、高いレベルのプラットフォームシャーシが開発されるようになったが、その実現にも高張力鋼は大いに貢献しているのである。
だが面白いことに実は、高張力鋼も低炭素鋼も強度はほぼ同じなのである。剛性(=たわみにくさ)が変わることで、一定のレベルまでは変形しにくいが、硬くなる分脆(もろ)さも高まるので、破壊強度としてはそれほど変わらないのだ。
最近はCAE(コンピュータによる数値化シミュレーション)により解析して最適化することにより、ほぼ衝突実験に近い予測ができることから、低弾性な炭素鋼と高弾性なハイテンを上手く使い分けて、軽量化と高剛性、衝撃吸収性を兼ね備えさせているのである。
関連記事
- 高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。 - なぜクルマのホイールは大径化していくのか インチアップのメリットとホイールのミライ
振り返ればこれまでの30年間、全体的にクルマのホイール径はサイズアップされる傾向にあった。そのきっかけとなったのは、低扁平率なタイヤの登場だった。なぜタイヤは低扁平化し、ホイールは大径化するのだろうか? - スタッドレスタイヤはどうして氷上でもグリップするのか
雪道ではスタッドレスタイヤやタイヤチェーンなどの装備が欠かせない。スタッドレスタイヤに履き替えていれば、大抵の氷雪路では問題なく走行できる。しかし、そもそもスタッドレスはなぜ氷雪路でも走行できるのか、考えたことがあるだろうか。 - 全固体電池は、なにが次世代なのか? トヨタ、日産が賭ける巻き返し策
全固体電池とは、電解質を固形の物質とすることで、熱に強い特性を得ることができる電池のことだ。以前は理論上では考えられていただけであったが、固体電解質でリチウムが素早く移動できる物質が見つかったことで、開発は加速している。 - 車検制度はオーバークオリティー? 不正も発覚した日本の車検の意義
自動車メーカーが、生産工場からの出荷時に行う完成検査で不正をしていたことが明らかになったのは2017年のことだった。そして今年は、自動車ディーラーでのスピード車検で不正があった。日本の乗用車に関する法整備は昭和26年(1951年)に制定された道路交通法、道路運送車両法によって始まっている。その中には幾度も改正されている条項もあるが、全てが実情に見合っているとは言い難い。 - ガソリンには、なぜハイオクとレギュラーがある?
どうしてガソリンにはハイオクとレギュラーが用意されているのか、ご存知だろうか? 当初は輸入車のためだったハイオクガソリンが、クルマ好きに支持されて国産車にも使われるようになり、やがて無鉛ハイオクガソリンが全国に普及したことから、今度は自動車メーカーがその環境を利用したのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.