函館本線「山線」並行在来線として2例目の廃止、鉄道を残す方法は?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
1月31日に西九州新幹線の並行在来線、2月3日に北海道新幹線の並行在来線と、並行在来線の処遇に関する報道が相次いだ。並行在来線とは整備新幹線に平行する在来線のうち、JRが不要と切り捨てた区間だ。切り捨てられるほどなので、地元の人々の利用が少なく生活路線としての存続は難しい。それでも鉄道を残す方法はあるのだろうか。
日本も英国と同様に全国で鉄道路線の廃止が行われたけれども、保存鉄道という文化は発達しなかった。有志が集まろうにも、実際に鉄道を運行しようとすれば、安全基準が高く、事業計画性、資本力などを求められ、法律上の規制が厳しかったからだ。しかし、「特定目的鉄道」がそのハードルを下げた。
鉄道趣味やボランティア、慈善活動、チャリティーに対する社会の理解度も英国と日本では段違いだ。日本では「お恵み」「施し」と捉えがちだけど、英国ではチャリティーショップが多く、慈善活動は日常的。おカネがある人は使うし、時間があれば保護する労働力を提供する。そこに「誇り」がある。
それは個人だけではなく、法人の行動にも表れる。90年に「A1 Steam Locomotive Trust」という団体が結成された。40年代後半に作られ、伝統的な急行列車「フライング・スコッツマン」をけん引した名機「A1形蒸気機関車」を新造しようという団体だ。
A1形は残念ながらすべて廃車解体されている。しかし、その設計図が国立鉄道博物館に残っていた。だから新規製造しよう、となった。資金集めとして月額ビール1杯分の会費で千人単位の支援者を集めた。ここに英国最大の鉄鋼会社ウィリアム・クック、エンジンメーカーのロールス・ロイス、IT企業BAEシステムズも協賛した。そして08年、A1形はついに完成し、時速160キロメートルを達成した。
函館本線「山線」のバス転換は避けられないとして、約140キロメートルのうち、いくらかは英国式の保存鉄道として運営できないだろうか。第三セクターとして鉄道事業を継続するよりも「特定目的鉄道」のハードルが低い。冬期運休、夏期限定。実用的な観光資源として、もっと保存鉄道を活用したい。そこに「山線」存続のチャンスはある。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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