西武HDの「外資にホテル売却」が、“残念なニュース”でない理由:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
西武HDが、プリンスホテルなど30施設をシンガポールの政府系ファンドへ売却するという報道があった。これを受けて、ネットやSNSではネガティブな反応を示す人が多いが、本当に“残念なニュース”なのか。筆者の窪田氏は、逆の見方をしていて……。
外資が入ることのメリット
いずれにせよ、20年前から日本のホテル業界の人々が「やんなきゃいけないのは分かってんだけど、なかなかできないんだよなあ」と頭を抱えてきた「所有と運営の分離」に、業界ナンバーワンのプリンスホテルが乗り出したというのは喜ばしいことではないか。
また、それはわれわれ利用者にとっても言える。報道によれば、売却された施設の運営は引き続きプリンスホテル側が行う。これらの資産の価値を上げたいオーナー(ファンド)からあれやこれやと改善の指示をされることは間違いないので、売却されたプリンスホテルなどが、これまで以上に高いサービスを提供する施設へ生まれ変わる可能性もあるのだ。
というと、「ホテルの所有と運営を分離することが大事だとしても、ならばそれは日本の不動産会社と組めばいい話だ。今回の西武HDのように、外資に売るなどもってのほかだ」と日本の未来を憂う方も多いかもしれないが、町工場をハゲタカファンドに買われる話と違って、「ホテル」というのは外資が入ることによってプラスの効果のほうが大きい。
施設やサービスに「多様性」が生まれるほか、外国資本によってその国の観光客も誘致されるからだ。
分かりやすい例が、ハワイのオアフ島のロイヤルハワイアンやモアナサーフライダーなどだ。この歴史のある高級ホテルは、日本人だけではなく米国本土や世界中の観光客が利用しているが、実は所有者は、タクシーや観光バス、そして箱根の富士屋ホテルを持つ国際興業だ。1960年代に創業者の小佐野賢治氏がこれらのホテルを取得した後、「所有と運営の分離」が成功のカギであることを理解していた国際興業は、運営をシェラトンに任せて現在に至っているのだ。
ハワイのホテルやゴルフ場には、このように日本資本がたくさん入っている。確かに当初は地元から「このままいけば、ワイキキはぜんぶ日本に買い占められる」なんて心配の声もあったが、そのように日本資本がたくさん入ったことで地元に恩恵もあった。
爆発的に観光客が増えたのである。それまでは米国本土の観光客しか相手にしていなかったような高級ホテルに、日本資本が入るので当然、日本の観光客に受け入れられるような整備が求められていく。日本語の案内もできるし、ガイドも用意される。そうなると当然、航空会社、旅行会社と協力して「ハワイキャンペーン」も仕掛ける。
もちろん、最初のほうはちょっと前の京都のように「観光公害」が問題になる。しかし、これも日本企業の現地法人が地元住民と対話を重ねて解決していく。だから今、国際興業をはじめとした日本資本の多くは、ハワイの発展に寄与した企業として地域の人々からもすっかり受け入れられている。
世界の人々を魅了する観光地には、このような「多様性」や「寛容さ」があるのだ。
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