OJT頼みな企業が多い中、メルカリが「博士課程進学支援制度」を発表した意義:「会社が社員を守る時代」の終焉(2/3 ページ)
社員の教育に関してOJT頼みの企業が多い中、メルカリが発表した新制度が話題を呼んだ。人生100年時代の今、重要性が高まる「リスキリング」だが、多くの企業ではなかなかそうした仕組みができていないのが現状だ。
1つは、教育研修費用を「コスト」と捉えていることです。
Off-JTで外部の研修機関などを利用する費用はコストと見なされます。また、社員を講師にしてOff-JTを施すと、生産活動から外れている間の講師と受講者の人件費はコストです。最も確実なコスト抑制策は、社員の教育研修をOJTに限定することです。OJTであれば、教育担当の社員に負担はかかるものの、生産活動は維持でき、目に見えるコストが発生することはありません。
2つ目は、メンバーシップ型といわれる日本の会社の特性です。メンバーシップ型は、「就職」ではなく「就社」だといわれます。基本的に社員は職務無限定で、会社からの指示による配置転換がたびたび起こります。そのため、せっかく仕事を覚えた社員が異動でいなくなったり、代わりに未経験者を一から教え直したりということもよくあります。年度替わりなどには、全社で同時にたくさんの異動も発生します。そのたびに職場を離れてOff-JTで社員を育成していては、かなりのロスです。生産性を考えると、仕事を回しながらOJTで教育する方が合理的というわけです。
3つ目は、社員の担当職務を細かく定めて体系化できていないため、学ぶべきスキルが分かりにくくなっていることです。例えば営業職だと、商品を売る業務全般、くらいにザクっと捉えてしまう傾向があります。しかし実際は、ファーストアプローチから商談を成立させるクロージング、請求書発行後の債権回収まで、一つの職種はさまざまな職務が連なることで構成されています。
また、必要となるスキルや知識は職務ごとにさらに細分化されます。
例えば、採用は人事という職種を構成する職務の一つですが、中途採用と新卒採用ではノウハウが全く異なります。さらに、採用対象者が現場作業員なのかエンジニアなのか外国人なのかでも必要なスキルや知識が異なります。それら職務ごとの違いを細かく洗い出して体系化していないので、補足すべきスキルがあっても曖昧です。Off-JTで教育研修を施そうにも、どんなカリキュラムを受けさせればよいのか焦点がボヤけてしまいます。それなら、先輩や上司が仕事中に気付いた課題を肌感覚で捉えて、その都度OJTで教える方がスムーズに対処できます。
これら3つの要因は、いずれもその会社の考え方や体質と密接に結びついています。
では、Off-JTを機能させたい場合、どう対処すればよいのでしょうか? 先ほど挙げた3つの要因に沿って考えていきましょう。
関連記事
- 「リスキリング」とは何か 有能な人材が欲しいなら、必要不可欠
新しいスキル・能力・知識を身につけていくことを指す「リスキリング」。これまでも「学び・学習(学び直し)」や「人材教育・人材育成」などがあったが、このタイミングでリスキリングに注目が集まるのはなぜか。 - 人事が会社を強くする! 必要性が高まる「リスキリング」のため、人事が今すべき3つのポイント
人事部門や教育担当部門にとって、従業員に対する学びの場の提供や、教育効果を高めるための施策の導入は重要なミッションです。しかし重要性は高くても、リスキリングは「学びの機会を用意して、終わり」ではありません。従業員の意欲の向上、効果の測定、魅力あるコンテンツ作り……導入に当たって、人事が取り組むべきポイントは多くあります。 - “やってる感”だけ先走る――なぜ日本企業は「名ばかり改革」を繰り返すのか
テレビ局に、「AD」の名称を変更する向きがあるらしい。何でも、名称を変えることでADに対するマイナスのイメージを払拭する狙いがあるようだが、その効果には疑問符が付く。なぜ、日本企業は「やってる感」が透けて見える名ばかり改革に走るのか。 - 米国が直面する「大退職時代」――若手人材を中心に、日本企業にも到来しそうなワケ
今、米国では多くの労働者が退職し、新たなキャリアを歩み始める「大退職時代」を迎えている。2021年のニュースを振り返るに、この波は日本にも到来しそうだ。特に、若手人材を中心に…… - 社員に「自己犠牲による忠誠」を強いる時代の終焉 「5%」がもたらす変化とは
企業が社員に「自己犠牲」を強いる時代が終焉を迎えつつある。背景にあるのは、企業と働き手の間にあるパワーバランスの変化だ。筆者は「5%」という数字に目を付け、今後の変化を予想する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.