なぜクルマには半導体が必要なのか? どうなるクルマと半導体のミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(3/3 ページ)
改めていうまでもないのだが、EVやハイブリッド車は当然として、純エンジン車にとっても半導体は欠かせない部品だ。それでもこの半導体というモノ自体が何なのか、今一つクリアになっていない。さらに深層へと迫ろう。
クルマのECUの進化は今後、二極化の流れ
現時点ではエンジンECUに加え、車種によって室内装備用やシャーシ用にECUを搭載し、それぞれを通信させてさらにその末端にあるマイコンまで信号を送って制御している。今後は、より高度な制御を実現するためにどう進化させていくか、興味深いところである。
今後の車内ネットワークの進化の方向性の提案は、大きく2つに分かれている。一つは高性能なECUを核にしてネットワークを構築するプランだ。1つあるいは2つのHPC(ハイパフォーマンスコンピュータ)を用意して、その先には中継用のECUを介して末端のマイコンを制御する。
もう一つのアイデアは、マイコンの高性能化によりメインのECUの負担を減らす考えだ。マイコンのセキュリティ性を高めることで、ECUとしての能力も与えることが可能になる。
これは提案しているのが自動車部品のサプライヤーか、半導体メーカーであるか、という立場の違いも大きい。サプライヤーはモジュール化してユニットの個数を減らし、高価値高価格化を目指したいだろう。それに対して半導体メーカーは半導体をたくさん搭載してもらい、生産量を高めて安定経営を目指したい姿勢なのだ。
無線か有線かという車内ネットワークの進化の方向性も分かれている。セキュリティに加えノイズ対策などそれぞれにメリット/デメリットが存在するため、価格帯や地域により最適な方法が選ばれていくと予測できる。
あと10年はガソリン車が作られるとして、今より2世代は電子制御も進化していくと予測できる。EVにおいてもエンジンや変速機ほど緻密な制御は必要なくなるが、車体側の制御はより高度化していく可能性が高い。
電動化の流れが急加速しつつある現在、モーターやバッテリーに注目が集まるが、エンジンにせよモーターにせよ、半導体がなければクルマは動かない。クルマにとって半導体は、ヒトに例えるなら脳であり目であり耳でもあるのだ。日本がこれからもクルマで稼いでいくためには、半導体を押さえておくことが非常に重要なのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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