「アツギ」工場閉鎖で青森県むつ市は“困惑” ストッキング大手の低迷と、中国依存のリスク:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)
ストッキング大手のアツギが国内工場を閉鎖し、中国での生産にシフトすると発表した。日本最大級のストッキング工場がある青森県むつ市では「寝耳に水」と対応に追われている。業界をリードしてきたアツギはなぜ苦戦するようになったのか。
進められてきた合理化
PSは装置産業である。編機に原糸をセットすると、コンピュータを駆使した複雑な動きをして、ほぼ全自動でPSの形状に編み上がる。肌色に染める染色まで、一気にでき上がっていく。
この間、全く人の力が要らないわけではないが、非常に限定的で、究極にまで省人化されている。とりわけ、むつ工場は撚糸から編み、縫製、染色、検品、出荷まで、一気通貫しているフルラインの主力工場で、合理化が進んでいた。
「PSのように機械化、量産化が進み、人件費を切り詰めてきた産業が、なぜ国内の工場でつくると利益が出ないのか?」と、アツギの広報に問うてみた。
回答は「出荷の前の品質の確認や、でき上がった製品をパッケージに入れるのは手作業で、そこに人件費がすごく掛かる」とのこと。
確かに繊細なPSは、普段履いていても、何かに引っ掛かって伝線することがある。破けた不良品が店頭に並ばないように綿密に点検する作業の大変さは、想像しただけでも途方もない。また、軟らかいPSをパッケージの中に、きれいに折りたたんで入れる作業は、現状ロボット化が進んでおらず、人の手に頼っているという。
国内生産を諦める兆候は見えていた
工藤社長は青森県の出身。子どもの頃から、むつ市の工場を見ていたこともあり、アツギには親しみがあった。故郷の産業を支えるアツギは、少年の頃の工藤氏にはまさに地元を明るく灯(とも)す希望の光に見えたのではないだろうか。
ところが、夢を抱いてアツギに入社し、実際に自分が社長になって、赤字の元凶である工場の閉鎖と全社員の解雇を言い渡さなければならないとは、なんという運命の皮肉か。
今回、5月末で閉鎖するのは、アツギ東北の青森県むつ市と、岩手県盛岡市にある工場。むつでは500人超、盛岡では約80人が事実上解雇されることになる。
むつ事業所は、1966年にPSの増産のために設立され、一時は1000人以上を雇用。もともとは誘致した企業ではあったが、半世紀もの歴史を重ねると、地元にすればわが町の工場といった感覚が強い。
しかし、2020年7月にアツギ東北は約330人の希望退職者を募集。21年3月に青森県野辺地町の野辺地工場を閉鎖して、約40人の従業員を解雇した。アツギが国内生産を諦める兆候は見えていた。
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