「アツギ」工場閉鎖で青森県むつ市は“困惑” ストッキング大手の低迷と、中国依存のリスク:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/6 ページ)
ストッキング大手のアツギが国内工場を閉鎖し、中国での生産にシフトすると発表した。日本最大級のストッキング工場がある青森県むつ市では「寝耳に水」と対応に追われている。業界をリードしてきたアツギはなぜ苦戦するようになったのか。
「グローカル化」を先取りした創業者
アツギの歴史を振り返ってみよう。創業者の堀禄助氏(1908〜93)は、立志伝中の人物で、神奈川県相模原市の出身。いったん教職に就くが、世の中の貧困をなくしたいと東京農工大学(当時は東京高等蚕糸学校)で学び直し実業界に転身。日本を代表する大手繊維メーカーの片倉工業(当時は片倉製糸紡績)に就職した。海老名工場の工場長などを経て、終戦から間もない1947年に、海老名市内にアツギの前身となる厚木編織を設立した。
海老名の企業なのに、隣の市である厚木を企業名に名乗る理由は諸説あるが、JR相模線と小田急線の厚木駅は海老名市内にある。厚木市の中心駅は、小田急線の本厚木駅だ。また、米軍と自衛隊の厚木基地も綾瀬市と大和市にまたがる地域にあって、厚木市内にない。つまり、神奈川県央を指す地名として、周辺部も含めて厚木が普及していたことや、「ア」から始まり語呂が良く覚えやすいことから選択したようだ。
何よりも、45年8月30日、マッカーサー連合軍最高司令官が厚木基地にて日本の領土に降り立った印象は強烈だった。マーケティング感覚に長けた堀氏としては、厚木をブランド名にすれば、宣伝の必要もなく、新しい日本を象徴する商品として、消費者に覚えてもらえるという算段があったといわれる。
今は見る影もないが、明治以降、神奈川県央は繊維産業、特に生糸の産地だった、相模原、座間、綾瀬、大和、海老名、厚木といった一帯は、絹織物で栄えた八王子と、シルクの輸出拠点・横浜港に近く、外貨を稼ぐ重要な産業であった。また、山間部の愛川町半原は撚糸工業で栄えた。
堀氏は、地場産業の繊維を発展させて、ストッキング王に上り詰めた。地球規模で考え足元から行動する、グローバルにしてローカルな経営の差別化手法、企業の「グローカル化」を先取りした人といえよう。
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