トヨタがEVメーカーになることを待望するヒトに欠けている視点と残念な思想:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
トヨタのバッテリーEV戦略に関する説明会では、トヨタの底力を見せたのは間違いない。しかし、あれを見て「トヨタもBEVに注力するのか」と思った人は多かったようだ。そう思わせるのが目的だとはいえ、この見方はあまりにも単純すぎる。
EV、FCVはインフラが整ってこそ価値が高まる
実際にその販売目標が達成されるためには、それだけのユーザーに購入してもらう必要がある。EVを作るだけで誰もが買ってくれるのであれば、自動車メーカーも苦労はない。需要が十分ではないので、これまでも登録台数を増やすためにさまざまな手段を採ってきた。ディーラーに自社登録を促したり、レンタカーやリースに積極投入するなどといった策も、自動車メーカーの販売競争の中には存在してきたのだ。
BEVでいえば、日産はリーフにディーラーでの急速充電器使い放題という激安プランを導入していたからこそ、かつては一定の販売台数を上げられた。EVは充電環境とセットで考えなければならないからだ。
トヨタがBEVに乗り出してくるのだから、そういったBEVの弱点は克服されているのだろう、という期待を持っている人もいるかもしれない。しかしFCV(燃料電池車)のトヨタMIRAIを見てほしい。インフラが十分ではなくても、クルマの未来のために積極的に先行投入しているではないか。
MIRAIは2代目はより効率を高め、上質な走りまで手に入れている。しかしインフラが整わない現在、利用できるのは極めて限定された地域や限定された使い方ができるユーザーに限られてしまっている。
次世代エコカーはインフラ整備を同時に進めなければ、普及は叶わない。BEVを普及させるためには、高性能でリーズナブルなBEVを開発して販売するだけでなく、ユーザーが快適に使い続けられるインフラが不可欠なのは当然だろう。
その一方で、現在のEVに対して否定的な見方をするのも、実は間違った考え方に陥る危険性がある。集合住宅で充電設備がないため、ハナからBEV購入を諦めているドライバーもいる。集合住宅でもBEVの可能性に魅力を感じて所有しているユーザーもいるが、それらは極めて少数派だ。
それ以外のいわゆる一軒家で自宅駐車場で普通充電が可能なドライバーでも、BEVはまだ時期尚早だと考えている人は多いようだ。
まだ割高だと思う理由に、車両価格の高さとリセールバリューの低さを挙げる人は少なくない。しかしそれはガソリン車を購入する感覚から脱却できていないことが原因なのだ。
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