イオンの「最低賃金以下」問題から見える、“安いニッポン”の無限ループ:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
イオン九州が、パート従業員を最低賃金よりも低い時給で募集していることが明らかになった。とはいっても、これは単純なミス。システムの更新がきちんとできていなかったので、過去の“安い時給”が表示されていたわけだが、筆者の窪田氏は「見過ごせない出来事」だと指摘している。どういうことかというと……。
「値上げを拒否」する背景
渡辺教授著の『物価とは何か』(講談社選書メチエ)によれば、米国、英国、カナダ、ドイツの消費者と、日本の消費者に対して「いつもの店である商品の値段が10%上がっていた場合にどうするか」と尋ねたところ、日本以外の国の消費者は値上がりをしていても、やむなしと受け止め、高くなった商品を買うという答えが多かった。原料の価格や人件費などが上がればしょうがないと、値上がりを受け入れるのだ。
しかし、われらが日本人はそんな寛容さはない。「その店で買うのをやめて他店でその商品を買う」「その店でその商品を買う量を減らす」が多く支持されたのである。この結果を受けて、同書では、「値上げを断固拒絶すのは日本の消費者だけ」と結論付けている。
なぜこんなにも日本人は異常なまでに「値上げ」に拒否反応があるのか。
もちろん、そこにはこの30年間賃金がビタッと低いままで固定化され、ついには平均賃金で韓国にまで抜かれてしまったという「貧しい日本人」の実像があるわけだが、筆者は戦後70年で定着してきた日本人の「商売の美学」も無関係ではないと考える。
歌手、三波春夫の「お客様は神様です」がモンスタークレーマーの免罪符として誤解をされてしまったように、日本には伝統的に客に対して過剰なまでにかしづいて、過剰なまでに奉仕をすることによって、「お得意様」になっていただく、というかなりストイックな商売文化が「常識」となっている。
最低賃金労働者の高校生や外国人留学生などにまで、過剰に丁寧な接客、言葉遣いを強要するコンビニやファミレスがその最たる例だ。
実はこの「客への過剰奉仕」というカルチャーが、日本の安売り競争の生みの親になった可能性が高い。それが戦後経済の黎明期に誕生する「出血受注」である。
これはとにかく仕事を請け負うために、採算の取れないほど価格を下げるという商売スタイルで、1950年代の朝鮮戦争特需の際に、日本全国の企業で一気に広まった。とにかく景気のいいときに稼げるだけ稼いでいしまおうということで、コストをかえりみない破滅的なビジネスがちまたにあふれて、結果「安かろう悪かろう」の製品も多く流通した。そのあまりのなりふり構わずさが問題となって当時、国会でも取り上げられるほどだった。
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