「残業したいのに、させてもらえない」の声 問題はどこにあるのか:スピン経済の歩き方(3/4 ページ)
「残業をしたい。もっと働きたいのに、させてもらえない」――。サラリーマンの声を報じたニュースが話題になっていたが、この問題の根っこはどこにあるのだろうか。日本で働いていても、給与がなかなか上がらないのに……。
新陳代謝が進んでいない
世界では最低賃金の引き上げを着々と進めている。経営者の仕事は会社の付加価値を向上して、賃金を上げていくことだという考えが浸透していることに加えて、最低賃金を適度に引き上げていくことは、経済にいい影響があって雇用も悪化しないというエビデンスがそろってきているからだ。
しかし、日本でこれをやろうとすると、中小企業の業界団体が「そんな愚かなことをしたら雇用が維持できなくなって、日本中に大量の失業者があふれかえるぞ」という脅しのようなクレームが入って、政治家は「じゃあしょうがないか」とみな沈黙する。日本商工会議所を敵に回しても選挙でボロ負けするだけでなんの得もないからだ。
そういう不毛なやりとりを半世紀に渡って繰り返してきた結果、気がついたら日本は企業の99.7%が中小企業が占めて、就業者の7割近くがそこで働くという世界有数の中小企業大国となった。
「何が悪い! 元気な中小企業が日本経済を支えているんだ!」と怒る方も多いだろうが、中小企業が多いとか、そこで働く人が多いことはなにも悪くない。問題は「倒産しないことだけが目的の“現状維持型中小企業”が異常なほど多い」ということである。まったく成長しない、かといって倒産をするわけでもなく、ただ従業員を低賃金労働に縛り付けたまま事業継続している中小企業がやたらと多いことだ。
内閣府の「−感染症の危機から立ち上がる日本経済−令和3年3月」の中にその厳しい現実を示すデータがある。
『廃業率は、英国が11%程度、アメリカが8%程度と、開業率と同程度の廃業率となっているなかで、我が国の廃業率は1.5%程度と圧倒的に低い。この結果、開廃業率の和も、主要先進国と比べて小さく、我が国企業の新陳代謝は非常に低くなっている』(第3章 ポストコロナに向けた企業活動の活性化と課題)
日本ではとにかく倒産が悪いことであって絶対に避けなくてはいけないことだということで、大量の税金が投入されて延命措置がなされる。しかし、時代にマッチできなくなったビジネスが市場から退場を余儀なくされて、それと入れ替わるように新しいベンチャーが誕生するのは、社会を進歩させていく意味では自然の流れだ。このような新陳代謝が産業を成長させて、新しい技術を生み出した、付加価値を向上させて、さらには労働者の賃上げをさせてきたという動かし難い事実がある。
そんな新陳代謝が日本はまったく進んでいないのだ。なぜかというと、先ほど申し上げた税金での延命もさることながら、「雇用の確保のためにはしょうがないよね」という日本のカルチャーも大きい。これは言い換えれば、会社を倒産させないためには、従業員を安い給料でこき使ってもよろしい、と社会がお墨付きを与えているようものだからだ。
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