「残業したいのに、させてもらえない」の声 問題はどこにあるのか:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
「残業をしたい。もっと働きたいのに、させてもらえない」――。サラリーマンの声を報じたニュースが話題になっていたが、この問題の根っこはどこにあるのだろうか。日本で働いていても、給与がなかなか上がらないのに……。
八つ当たりをしてきた結果
中小企業は地域の雇用を支えているという立派な役目があるので、とにかく存続していることが大事であるという考えが広まってしまった。会社が存続するには固定費は低く抑えたほうがいいに決まっている。賃上げなどもってのほかだ。
だから、この国の労働者は“残業がデフォルト”という長時間労働が「義務」となっている。世界がドン引きする低賃金も、ブラック労働にも耐えなくてはいけないのも、すべては雇用を確保する会社を守るためだ。もっと残業したいと不満を抱えながらも、安い給料で文句を言えないこの問題の根っこに、「日本の多くの会社は従業員を犠牲にしてなんとか生き延びている」という原因があると申し上げた理由が分かっていただけただろうか。
こういう構造は古くは明治時代の製糸工場などでも見られている、いわば日本の伝統だ。
最近、安いニッポンについて議論になると、アベノミクスが悪い、円安政策が悪い、とあたかも日本の低賃金重労働がこの数年で発生した現象のように語る人々がいる。しかし、歴史を見れば安いニッポンは100年前からの伝統であり、その根っこには「低賃金労働者の犠牲の上に、会社を存続させる」という日本の産業構造がある。
そこから頑なに目を背けて、あれが悪い、これが悪いと表面的な問題に責任転嫁をしてきた結果が30年賃金の上がらなかった今の日本だ。
その問題先送りがいよいよ限界になってきた。「残業したいけど、させてもらえない」という嘆きの声は、構造的な問題から目を背け続けるわれわれに「いい加減そろそろ産業構造に問題があることに気づけ」と警鐘を鳴らしてくれているのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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