百貨店が始めた「高級アパレルサブスク」 1万円超えなのに、申し込みが想定の7倍も殺到したワケ:ピーク時は8カ月待ち(2/3 ページ)
大丸松坂屋百貨店は2021年3月、高級ブランド服のサブスクサービス「AnotherADdress」を発表した。初年度の目標を700%達成したが、実は一度「却下された」ビジネスだった。その理由は? また、なぜ7倍という驚異的な数字を達成できたのだろうか?
経営層からのNGにどう立ち向かう?
アナザーアドレスの事業責任者を務める田端 竜也氏は入社後、店舗研修期間をへてホールディングスの事業開発部に一貫して所属し、オムニチャネルの構築やアプリの立ち上げなどを担当してきた。
6年前、経営層の「百貨店ビジネスの限界」という課題意識から、オープンイノベーションを推進する部署が誕生。田端氏も立ち上げ期から関わった。その後、国内スタートアップとの協業や、米IT業界の象徴であるシリコンバレーへの派遣など、現地で最前線のビジネスの情報収集や出資を通じた連携を模索していた。
米国と日本を行き来する中、5年ほど前にシリコンバレーで「LE TOTE(ル・トート)」(同社は20年に新型コロナウイルスの影響で連邦破産法第11条の適用を申請)などのファッションサブスクの成長を目にする。日本でも「シェアリングエコノミー」「サブスクリプション」などのワードやサービスが広がり始めたタイミングだったという。
百貨店というビジネスモデルに対する危機感と日本でもサブスクビジネスの機運が高まっていることを受け、経営層に「ファッションサブスク」を提案。しかし、結果は失敗に終わった。
「今まで”売る”ことをビジネスにしてきた百貨店が、”貸す”ビジネスを始めたら、カニバリゼーションが起こるのではないか?」という懸念が寄せられたのだ。小売業とサブスクは相反するビジネスという考えに押しつぶされる結果となった。
百貨店から新規事業が生まれにくい理由について田端氏は、当時を振り返って3つの課題を挙げる。
「一つ目はテーマの粒度の荒さです。『新規事業を立ち上げろ』『リテールテックだ!フィンテックだ!』と言われましたが、一言でリテールテックといっても幅が広いです。経営層が何を目指すのか、そこの目線合わせが不十分だと感じました。
二つ目は企画と実行が分離している点です。私はずっと新規事業を担当しているのですが、戦略設計〜立ち上げのサポートという企画部分がメイン。つまり、実行部隊は別でした。新しいビジネスを進めていくにあたって、衝突やトラブルは日常茶飯事。そのビジネスに対する思いが強くないと、現場で熱量を持って取り組むのはなかなか難しいと思います。
三点目は意思決定の遅さです。新規事業は経営企画がオーナーとなって進めますが、物流担当や仕入れ担当などさまざまな部署から関係者が集まります。参加者は決定権を持っていないことも多く、一度部署に持ち帰ってから意見交換という流れが一般的です。時間もかかるし、エッジの効いた意見も通りにくくなります。当社の新規事業は8〜9割のエネルギーをそこに費やしてしまっていました。大きな課題だと感じています」
これらの課題を踏まえ、社内ベンチャー型で新規事業立ち上げを進めることになった。しかし、アナザーアドレス立ち上げの課題はほかにもあった。
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