東京・港区が9階建ての区立小学校を新設した理由:タワマン増加が背景(2/2 ページ)
オフィスビルなどが立ち並ぶ東京・港区芝浦に「港区立芝浜小学校」が新たに開校した。同区にとって、統廃合を伴わない形での区立小新設は、小中一貫校の区立港陽小学校(港区台場)以来、26年ぶり。新設の背景を取材した。
子育て支援施策が好評の港区 タワマン増加で人口増加
厚生労働省が2月に発表した「2020年人口動態統計」によると、日本の出生数は1899年の人口動態調査開始以来最少の84万835人で、前年の86万5239人より2万4404人減少。15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計した「合計特殊出生率」は、前年から0.03ポイント減少し1.33となるなど、日本全体で少子化が進む中、なぜ港区は区立小の新設を決断したのだろうか。
背景には、タワーマンションの増加がある。これにより、同区へのファミリー世帯の転入者が増加した。東京都が3月に公表した「2020年人口動態統計」によると、同区の合計特殊出生率は23区で中央区(1.43)に次ぐ2位で1.34。この数値は都内の平均値(1.12)を大きく上回っており、同区は都心部でも有数の子どもが多い自治体だ。
第2子以降の保育料無料化などの子育て支援施策が好評で、区内の年少人口(0〜14歳)も増加傾向にある。このため、待機児童問題も区の大きな行政課題だったが、19年4月に待機児童ゼロを達成した。
ただ、数年前まで待機児童問題を抱えていた同区が、次に直面したのが、区立小の教室不足だった。都心部の自治体であることから、小学校から私立に通う児童が多いと思われがちだが、区の担当者によると「区全体で7割程度は区立小に通い、それ以降は受験で私立の中高一貫校に通うケースが多い」という。
芝浜小が位置する芝浦エリアには、区立芝浦小学校1校しかなく、同校には現在、定員約900人に対し、6学年で計1250人の児童が在籍している。区によると12年の同校の児童数は約600人だったといい、10年間で倍増したことになる。都教育庁の統計によると、芝浦小は都内で2番目に在校生が多い小学校(1位は港区立港南小学校)でもあり、都内屈指のマンモス校だった。
急激な児童数増加に対応するため、区は芝浦小の特別教室や多目的教室を普通教室に改修。校庭にも仮設校舎を建設し、教室を増やすなどの増改築を繰り返したが、それも限界に達していた。
そこで、区は芝浦エリアの工区を2分する形で芝浜小の新設に着手。建設地としてさまざまな候補が挙がる中、みなとパーク芝浦の隣接する区有地を活用する案が浮上した。区は当初、この場所に区立の文化芸術ホールを建設予定だったものの、11年3月の東日本大震災の影響で建設案を変更。別の場所での建設が決まっていたことから、空き地になっていた。
狭い土地に小学校として必要最低限の機能を集約したことから、同校では広大な校庭を確保することができなかった。最上階の屋上校庭では授業を実施するのが精一杯で、保護者などの観覧席の確保が難しい。運動会は隣接する、みなとパーク芝浦内のアリーナを活用し、開催するなど、区立施設同士での連携も視野に、今後の児童数増加に対応する方針だ。
港区が26年ぶりに新設した区立芝浜小。区によると、他の区立小でも教室数不足が課題となっており、各校は芝浦小同様に、増設・増築で対応しているという。一方で、都市部では建設用地が限られる上、人口増加もいつまで続くか不透明であるため、安易に学校を新設できないという自治体側の事情もある。都市部の自治体には人口増加の動向と、地域の通学需要を鑑みた、難しい判断が今後も求められそうだ。
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