アリアで知った、日産の走り味とは: 鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(2/2 ページ)
先日、日産の新型EVである「アリア」のメディア向け試乗会に参加しました。試乗の後には、アリアの開発者の話を聞く機会も得ました。そこで気づいた「日産の走り」を紹介します。
重厚さよりも軽快さを選んだ
ただし乗り心地という点でも重量車ではなく、まるでコンパクトSUVのよう。ハッキリ言えば、フロアがひょこひょこと動くという印象が強く残りました。正直、“フラッグシップ”や“上品な加速”と、“軽い動き”に、どこかチグハグさを感じます。「アリアが目指す走り」をつかみ切れずに、モヤモヤとした気持ちで、開発者と対峙(たいじ)することになりました。
そこで、ずばり「日産の目指す走りとは、どういうものなのか」と尋ねてみれば、「コンフィデンシャル・ドライブ。安心のできる走りです」とのこと。また、欧米ブランドと戦うために軽快さを演出しているともいいます。答えてくれたのは、操安性を担当する開発者です。
その話を聞いて、ストンと腹に落ちました。
なるほど、日産の走りの根底には「コンフィデンス(信頼、信用、自信、確信)」があるのかと。また、アリアが戦うミドルSUVのEVというジャンルには、メルセデス・ベンツやBMWをはじめとする欧米プレミアム・ブランドがひしめきあっています。その中で、日産らしさを見せるために、重厚さよりも軽快さを選んだというわけです。
また、「コンフィデンス」という意味では、確かに、今回のアリアB6は、軽快さがありますが、「どこかで裏切る(予期できない動きをするのでは)」という不安は一切ありません。つまり、アリアは、ライバルと戦うために軽快さを演出しつつも、その根底には、また別の日産の走りの特徴を備えていたのです。
そうした信頼感は、他の日産車にもあります。「ノート」や「セレナ」といった大人しいキャラクターのモデルだけでなく、「フェアレディZ」や「GT-R」といったスポーツモデルであっても同じ。“信頼できるから、怖くない”と、自信を持って運転できるのです。日産車の走りは「コンフィデンシャル・ドライブ」で統一されていたのです。
ある意味、ハラハラドキドキというスリル感とは、正反対の方向性です。でも、そんな躾(しつけ)があるからこそ、大きなパワーを扱うことができるのでしょう。そうであれば、これから登場する、より高性能なアリアの走りも予想できます。大容量電池と2モーター4WDのB9 e-4ORCEの出力は290kWもあります。これは馬力にすれば約395馬力。6月に登場する新型「フェアレディZ」の、3リッターV6ターボの298kW(405馬力)に肉薄するのです。
しかし、コンフィデンシャル・ドライブのB9 e-4ORCEであれば、怖い思いをすることはないはず。上品に大パワーを使うことができるのではないでしょうか。ハンドルを握る機会が来ることを楽しみに期待したいと思います。
筆者プロフィール:鈴木ケンイチ
1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。
関連記事
- 新生日産が目指す道とは 電動化への“野望”を読み解く
日産は今、再生の道を歩んでいます。日産代表取締役会長カルロス・ゴーン氏が逮捕され、日産は、すべてが変わりました。その直後のコロナ禍を経て、4か年計画「NISSAN NEXT」を発表。さらに新たな長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表しました。 - ソニーも参入 各社からEV出そろう2022年、消費者は本当にEVを選ぶ?
22年は、これまで以上に「EV」に注目の年となることは間違いありません。なぜなら、22年は市場に販売できるEVがそろう年になるからです。 - クルマにあふれかえるスイッチ問題。最新メルセデスはどう対処した?
機能が増加するたびに、それを操るためのスイッチが必要になります。数は多く、その理解と操作は煩雑で困難になる一方。そんな操作系の試行錯誤が続く中、「近頃、乗った中で、最も洗練されている」と感じたのがメルセデス・ベンツの最新モデル、「Cクラス」です。 - マツダ・ロードスターが玄人受けする理由 マイナーチェンジで大絶賛
改良された「ロードスター」が、びっくりするほど好評です。試乗会を実施しました。そのレポートを見てみれば、どれもこれも好評、というか、ほぼ絶賛の嵐といった具合。いったい、そこにはどんな理由があるのでしょうか? - 実は日本で一番に売れている「メルセデス・ベンツ」 高級車の象徴はなぜ輸入車ナンバー1に至ったのか?
今、日本で最も数多く売れている輸入車は何かといえば、それは「メルセデス・ベンツ」です。しかし、メルセデス・ベンツが日本で一番多く売れるブランドになったのは、ここ最近の話。かつてのメルセデス・ベンツは「高級車の象徴」であり、販売される数もそれほど多いものではありませんでした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.