「上場時に、うちの株を全部売ってほしい」──“IPO革命”は、なぜ実現できた? ラクスル永見CFOに聞く:対談企画「CFOの意思」(3/4 ページ)
ラクスル上場前にベンチャーキャピタル(VC)に株を売却してもらう、上場に海外投資家も巻き込む──などの革命的な手法は、どのようにして編み出したのか? ラクスル永見CFOとグロース・キャピタル嶺井CEOの対談の模様をお届けする。
永見氏: 入社後いきなり「人材エージェントを29社集めてるんで、採用プロジェクトを回してもらっていいですか」と言われ、もともとのミッションとはかけ離れた採用をやることになりました。「落ち着いてプランニングしなくていいのかな」「でもベンチャー企業では数を担保して解像度を上げるのも大事だしな」と思いながら手を付け始めた入社3日目には、今いるメンバーのうち、既に何人か離職する予定なのだと分かってきました。
前の管理部長からも「永見さん、辞めるので後はよろしくお願いします」と言われました。組織って与えられるものじゃないんだと気付き、自分で組織を作っていくモードに切り替わりました。
嶺井氏: それまで輝くようなキャリアを歩んでこられた永見さんが、当時まだ従業員15人の会社に入ったと思ったら、既に数人辞め始めたわけですもんね。「なぜこんな転職しちゃったんだろう」と思ってもおかしくないような事態に、いきなり直面した。
永見氏: もう壁しかなかったです。DeNAに入った8カ月後にラクスルに転職しているので、妻にも「また転職する」とは言えなくて。もともと「50歳や60歳になって新しいチャレンジをするくらいなら、早めにチャレンジした方がいいよ」と妻に後押ししてもらって転職したんです。ただでさえ年収は4分の1になっていたし、DeNA在籍時には二人目の子供も産まれていたし、「つらい」とは言えなかったですね。
ベンチャーに来たからには「war for talent(人材獲得競争)」をやるしかない。自分のキャリアについては、この頃から考えなくなりましたね。退路を断っていましたから。
自分のキャリアについて考えなくなってからが経営者
嶺井氏: 「キャリアについて考えなくなった」というこのタイミングで、永見さんは経営者であり起業家になられたんでしょうね。起業家って、キャリアという概念がないじゃないですか。自分のキャリアよりも社員や顧客、株主たちの人生の方が大事になる。
永見氏: そうですね。そういう困難を提供してくれてありがとうと今では思えますが、当時は精神的にめちゃくちゃつらくて、泣きそうでした。
嶺井氏: 入社早々に自分ごととして夢を語って人を口説かないといけない環境だったわけですよね。入社から数カ月経って自分で資金調達を成功させ、「自分の会社だ」と思えるタイミングが来ればできるとは思うんですが、入社すぐから会社について語るのは難しかったんじゃないですか。
永見氏: 難しかったですが、そうせざるを得ないし、語らないといけない。面接で会った人たちには「助けてくれ」と言っていました。でもその後は採用の頑張りが報われて少しずつ仲間が増え、余裕が出始めてきたので、CFOとしての資金調達にスイッチしていきました。
留学中に目の当たりにした「日本にはまだない、ダイナミックなキャリア」
CFOに就任してからは自分のキャリアを考えなくなったと語る永見氏。それまではどのようなキャリア観を持っていたのか。
永見氏のキャリアにおける転換点は、DeNAへの転職、そしてラクスルへの参画だろう。それまではみずほ証券やカーライル・グループでM&Aや経営をアドバイスする側として経験を積んでいたが、DeNAへの転職で初めて事業会社にジョイン。さらにラクスル入社時には、経営者の立場へキャリアチェンジした。
この決断を後押ししたのが、カーライル在籍時に2年間、米ペンシルバニア大ウォートン校へMBA留学した際に得た「ダイナミックなキャリア」のインスピレーションだったという。
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