マツダの世界戦略車 CX-60全方位分析(1):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
前回の予告通り、今回からはCX-60の詳細な解説に入っていく。まずはマツダはなぜラージプラットフォームを開発したのか。その狙いはどこにあるのかが最初のテーマである。
マツダが高付加価値の商品を必要とする理由
もう一点重要なポイントがある。それはマツダの中期経営計画で発表した「2030年にBEV比率を25%まで高める」というコミットメントである。バッテリーは原材料も中間部品としてのバッテリーも、目下高騰中であり、その中で無理矢理にでも25%を売ろうとすれば、利益を大幅に圧縮しなければならないことが目に見えている。「少なくともBEVを売ってボロもうけ」というシナリオは描けない。
テスラが最新の決算で20%の利益を挙げているのはあくまでも過渡的状況であり、あれは前例にならない。彼らは彼らで別種のリスクを抱えているが、それは本稿とは別の話なので、機会を改めたい。
さて、では現在のマツダの販売100%の内、25%を「もうけの出ない商品」に置き換えなければならないとすれば、差し引きの75%で、従来と同等以上の利益を出さなければならない。しかもここ数年、マツダの利益率は3%前後と低迷しており、せめて5%くらいまでは持っていかないと話にならない。つまり、いずれにせよ、マツダは高付加価値方面にシフトせざるを得ない素地があったのだ。その中で、もっとも信頼する北米マーケットでの訴求を考えれば、6気筒FRという選択肢は確かに妥当と思える。
さて、前回の記事でインプレッションに供されたのは、CX-60の2種類のパワートレインだった。3.3リッター6気筒ディーゼルターボのマイルドハイブリッドと、2.5リッター4気筒ガソリンPHEVの2種類である。すでにこのラージプラットフォームについては、CX-60、CX-70、CX-80、CX-90のラインアップが発表されており、噂では日本向けのナローボディの2列シートがCX-60、3列シートがCX-80、米国向けワイドボディの2列シートがCX-70、3列シートがCX-90であると言われている。まあその辺りはいずれ明らかになるだろう。
さて、不思議なことに米国人はディーゼルを好まない。豊かな低速トルクを持ち、道路環境からいっても頻繁にシフトしながら高回転をキープするような運転はほとんどしない米国では、ディーゼルはもっと好まれてもよいはずだが、そこは理屈ではなくガソリンが好みらしい。
北米マーケットをターゲットに仕立てられたラージプラットフォームには当然ガソリンの6気筒は用意されるはずだ。多分それはマイルドハイブリッドとの組み合わせになるだろう。北米でのCAFE規制をクリアするためには純内燃機関の6気筒はマツダにとってありがたくないはずだ。
もちろん同様の理由で、直4+PHEVモデルもラインアップされるだろう。こちらはマツダ史上最もパワフルなパワートレインであり、おそらくは6気筒を選ぶ人たちよりもう少し新しモノ好きにアピールすることになる。出力とトルクはちょうどかつてのメルセデス・ベンツ500Eと同等。要するに少し前のスーパーセダンの動力性能ということになる。
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