マツダの世界戦略車 CX-60全方位分析(1):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
前回の予告通り、今回からはCX-60の詳細な解説に入っていく。まずはマツダはなぜラージプラットフォームを開発したのか。その狙いはどこにあるのかが最初のテーマである。
「4気筒は貧乏人のクルマ」の北米での勝ち方
そしてその北米での勝負は、当然韓国車や中国車との戦いが激化していくことが予想される。かつて米国車と比較して安価であることを競争力として戦った日本メーカーは、今後継続的に同じ戦略を取っていくことはおそらく難しい。
北米マーケットの中で、高付加価値商品へと軸をズラしていくしか生き残る道はない。となれば、4気筒では勝負できない。何度か書いている通り、米国は大排気量を好む国で、いまだに車名別ランキングのトップを争うのはV8ガソリンエンジンを搭載したピックアップトラックだ。
環境の観点からレスシリンダー化が進んだ欧州や日本とは、クルマの捉え方が違う。彼らの中ではいまでも「4気筒は貧乏人のクルマ」という認識が息づいている。
しかしながら、V8では米国以外で使い物にならない。他のエリアではほとんど需要がないからだ。となると、マツダの取れる手段は自ずと決まって来る。6気筒という選択肢しか事実上ないのだ。
ではなぜ直6なのかといえば、それはマツダが進めてきたモデルベースデベロップメント(MBD)が底流にあるからだ。簡単にいえば、MBDはコンピューターによるシミュレーション設計である。エンジン設計の無数の選択肢の中から、結果、それはすなわち「燃焼効率≒燃費」への寄与度の高い順に要素を切り出し、その順列組み合わせをスーパーコンピューターで徹底的に計算して、理想値を叩き出す。
エンジンは断続的に空気と燃料を吸い込んで燃やす仕組みなので、その脈動を考えると、マツダがこれまでやってきた4気筒でのシミュレーションが生かせるのは直6である。V6では吸気から燃焼に至るシリンダーごとのタイミングが全く異なるので、従来のデータが生かせない。
乱暴にいえば、手持ちの資産が生かせ、安く良いものが作れるのは、直6だということになる。となれば直6のエンジンをどこにどうマウントするのかも自動的に決まってくる。縦置きでFRにレイアウトする方が圧倒的に堅実で、わざわざトリッキーに横置きFFを選択する意味はない。
マツダは「走り」を重視することを再三に渡って主張してきている。直6横置きではフロントサスペンションの設計の自由度が大幅に制約される。何よりもアーム長が十分に採れないので、走りにしわ寄せがいくことは分かりきっているのだ。
だから直6FRを基本とするレイアウトを選択した。極めて理詰めで、合理的である。あとはそうやって高付加価値にしたクルマが本当に米国で売れるのかというところが課題として残る。そのためにマツダは、ディーラーのリニューアルを進め、高付加価値のクルマを売るに相応しい店舗のリデザインと従業員教育を進めてきた。そうした戦略が本当に機能するかどうかはフタを開けてみなければ分からないが、少なくとも無策ではなかった。やるべきことはやっていたのだ。
余談だが、店舗のリニューアルに際しては、販売店側も大きな投資を必要とする。その決断を促すために、マツダはトヨタと共同でアリゾナに新工場を設立した。それはつまり、北米マーケットに不退転の覚悟で臨むという決意を販売店に伝え、マツダが北米マーケット重視の方針を転換はあり得ないので、安心して販売店も投資して欲しいということを具体的な行動で示して見せたわけだ。
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