ホリエモンが訴える国内サプライチェーンの重要性 脱ロシア化で起こる宇宙ビジネスの課題:ホリエモン×夏野剛(2)(3/3 ページ)
今や米国では、民間企業しかロケットを打ち上げられない可能性もある。一方の日本では比較的、国内でのサプライチェーンの機能が保たれている。インターステラテクノロジズでも他国の部品に依存しない形で、ロケットの打ち上げに何度も成功している。
日本のベンチャーキャピタルの課題
夏野: こうした衛星に比べるとスターリンクは低い高度で飛んでいるのも強いですね。
堀江: だからレイテンシーがなく通信が早いんです。
夏野: 軌道が低くないとスピードが出ないから、スターリンクだと普通のインターネットと同じように使えるところがすごいですよね。
堀江: このことはみんな頭では分かっていたのですが、これができるのは世界でイーロン・マスクただ一人なわけですよ。通信衛星を自分たちで打ち上げたいと思っても、(スペースXによる商業用打ち上げロケット)「ファルコン9」がないからみんなできない。
夏野: ロシアがもう打ち上げられないということは、もう米国の民間ロケットしかないということですよね。
堀江: それしかないんです。実はウクライナとロシアは、ロケット打ち上げの商業マーケットで、とてつもないシェアを持っていたんですよ。「ゼニート」っていうロケットはウクライナ製です。
一段目はウクライナのユージュノエ設計局と、ロシアのエネゴマシュという企業が組んで、南太平洋上の誰もいないところで、海上の船から「ロケットをいつでも打ち上げられますよ」みたいなことをやっていたんです。このシーローンチっていう技術は、ロシアとウクライナにしかできないんです。
これはもともとICBM(大陸間弾道ミサイル)の技術なんです。日本とか欧州とかの衛星ベンチャーが打ち上げようとしたら、本当にたまに打ち上がるH-IIAのような大型ロケットのピギーバックっていう相乗りなどで頼むしかないのが現状です。
時々インドも打ち上げてくれていましたが、基本はみんなロシアにいっていました。これが全部使えなくなりましたので、今は米国のニュースペースベンチャーしか商用打ち上げがほぼできないのです。
米国のニュースペースはスペースX、ロケットラボ、最近はアストラっていう会社とヴァージンオービットっていう会社もできました。この4社のうち現時点では事実上スペースXとロケットラボの2社に限られますね。米国が民間ロケット開発をほぼ独占している中、日本にはびっくりするほどニュースペースのベンチャーがありません。
夏野: その背景にあるのがNASAの宇宙政策の変更で、その要因が大きいんだけど、日本のベンチャーキャピタル(VC)もどうしようもないですよね。
堀江: SaaSにばっかり投資するVCですか。
夏野: 日本のVCは、追い銭は絶対にしないんですよ。つまりどういうことかというと、SaaSだったらやるとかいう方針すらも明確ではなくて、とにかく全部にちょっとずつ出すということなんです。
堀江: ポートフォリオを組むわけですね。
夏野: そう。だから一応ポートフォリオ的には成功するんですけど、大きくは成功しない。米国などのVCは、グーグルもそうだけど、最初にお金を出した企業には2回目3回目4回目も、もっと出すんです。日本は最初に出したVCは、(ビジネスが軌道に乗り始めた段階でのシリーズAに続く資金調達である)シリーズBは出さないでしょ。「だってそこは出したから」みたいな話になります。そしてこれは宇宙開発のように、お金が大量にかかるところにはお金が集まらないわけです。
堀江: そうなんですよ、まさに。
夏野: だから日本ではスペースベンチャーがある一定の規模にいかないと無理じゃないですか。同じ理由で、日本ではテスラも生まれないんです。テスラなんて本当に車が売れ出すまでに3000億ぐらい集めています。
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