宇宙ベンチャーISTが直面した組織における「50人の壁」 ロケット打ち上げ2回連続成功を支えたマネジメントとは?:3年でメンバーは4倍に(1/5 ページ)
ロケットの開発から打ち上げまでを一貫して自社で担い、大樹町のまちづくりにも関わるインターステラテクノロジズは22年も大きく成長しようとしている。稲川社長にISTのロケット打ち上げ成功の背後にあった「50人の壁」と、それをどんなマネジメントによって乗り越えているか、そして今後の展望を聞いた。
北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)は、2021年に観測ロケットMOMOの宇宙空間への打ち上げに2回連続で成功した。19年に初めて宇宙空間到達を達成したものの、その後は全面的な成功には至らなかった。だが、機体の全面改良によって安定的な打ち上げを実現している。
「圧倒的に低価格で、便利なロケット」を作ることを目指しているISTは、ホリエモンこと堀江貴文氏が13年に設立。MOMOに加えて、23年度に打ち上げを計画している超小型人工衛星打ち上げロケットZEROの開発を企業や大学とともに進めている。
ロケットの開発から打ち上げまでを一貫して自社で担い、大樹町のまちづくりにも関わるISTは22年も大きく成長しようとしている。
ITmedia ビジネスオンラインではIST社長の稲川貴大氏に単独インタビューを実施。稲川氏にISTのロケット打ち上げ成功の背後にあった「50人の壁」と、それをどんなマネジメントによって乗り越えているか、そして今後の展望を聞いた。
稲川貴大(いながわ・たかひろ)インターステラテクノロジズ社長。1987年埼玉県生まれ。大学院卒業後、大手光学メーカーへの入社を直前で辞退し、ロケット開発を手掛けるベンチャー企業のインターステラテクノロジズに入社。2014年に社長に就任し、会社や開発の指揮をとっている。大学時代にはサークルで人力飛行機を作って飛ばす「鳥人間コンテスト」に参加したほか、人の身長ほどの超小型ロケットも製作した
MOMOは商業化のステージへ
ISTの観測ロケットMOMOが2年振りに宇宙空間到達を成し遂げたのは21年7月3日。7号機にあたる「ねじのロケット」が、高度約100キロの宇宙空間に到達。さらに、7月31日には6号機の「TENGAロケット」の宇宙空間への打ち上げにも成功した。
19年5月に「宇宙品質にシフト MOMO3号機」で初めて宇宙空間に到達して以降、4号機、5号機の打ち上げはともに成功とは言えない結果に終わった。その要因を分析し、約1年かけて全面改良に取り組んだ機体「MOMOv1」によって、安定的な打ち上げを実現したのだ。稲川氏は2回連続の打ち上げに成功した率直な感想を、次のように語った。
「3号機で成功したあと、4号機、5号機と苦労して、改良した結果が出たことはうれしかったですね。2回連続で打ち上げに成功した大きな意義は、信頼性を確立できたことだと思います。ロケットを飛ばす技術の実証ができたのが3号機でした。ねじのロケットとTENGAロケットでは打ち上げの成功確率を上げるロケットに進化しました」
特にTENGAロケットでは、新たな取り組みも成功させた。それはペイロード(積載物)の宇宙空間での放出と、海上での回収だ。さらに一連のミッションを、ロケットに搭載したカメラで宇宙からYouTubeで中継した。
「TENGAロケットには大きな文脈が2つあります。1つは企業の広告にロケットを利用することです。機体をスポンサーのTENGAのデザインでデコレーションするとともに、公式キャラクターのTENGAロボを宇宙で放出して、海上で回収しました。これは日本の民間企業で初めて成し遂げたことです。スポンサー企業のPRに効果があったと思います。
もう1つは、そのミッションを宇宙から中継したことです。ロケットに搭載したカメラできれいな画像で中継できたことは、ロケットの利用方法を拡張したといえます。TENGAロケットの成功によって、ロケットの商業化の一歩を踏み出したと考えています」
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