「日清の“謎肉”がなくなれば、日本の生命線が守られる」は本当か:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
日清食品ホールディングスと東京大学は、日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功した。この報道を受けて、筆者の窪田氏は「日本の生命線が守られるかも」と指摘しているが、どういう意味なのか。
培養肉開発を国策に
ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わったと、政府や自民党からは防衛費をGDP比の2%まで引き上げる必要性が唱えられている。言うまでもなく、中国、ロシア、北朝鮮の脅威に対応するためだ。
ただ、個人的には、そこまで金を捻出する余裕があるのなら、培養肉開発を安全保障の柱に定めて技術者や設備に投資をしていったほうが、「日本を守る」という点でははるかに効果があると考えている。なぜなら、敵基地攻撃能力を身につけたとしても、核シェアリングで抑止力を持つようになったとしても、今のままでは、どこの国と戦ったところで日本の「惨敗」は目に見えているからだ。
武力侵攻に関しては、世界5位の軍事力をもつ自衛隊と、同盟国である米国の協力もあって持ち堪えることはできるだろうが、遅かれ早かれ食料とエネルギー不足で内部から崩壊してしまうのである。
ご存じのように、日本の一次エネルギー自給率は12.1%(19年度)でOECD(経済協力開発機構)加盟の36カ国中35位。しかも、カロリーベースの食料自給率は37%(20年度)でこれまた諸外国と比べてかなり低い。穀物自給率でみても28%(18年度)で、172の国・地域中128番目。また、OECD加盟38カ国中、32番目とひどい有様だ。
これは安全保障にリスクを抱えている国では、あり得ない水準だ。例えば、周辺に敵視をする国が多いイスラエルなどは、エネルギー自給率はエジプトからの石油に依存はしている部分もあるが、近年は天然ガス開発などで37%(16年)となっている。そして、食料自給率はなんと90%を超えている。
これは「たまたま」ではない。マッキンゼーの『「グローバル食料争奪時代」を見据えた日本の食料安全保障戦略の構築に向けて』(2017年12月)によれば、イスラエルでは食料安全保障政策は、国家安全保障の重要な一部として、首相直下でイスラエル国防と一体で検討されているという。
イスラエルは4度にわたる中東戦争を経験して、今もパレスチナ問題という火種を抱えている。このように戦争をリアルに捉えている国は、国民の生命を守るためには「食料とエネルギー」が必要だということをよく理解しているのだ。
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