「日清の“謎肉”がなくなれば、日本の生命線が守られる」は本当か:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
日清食品ホールディングスと東京大学は、日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功した。この報道を受けて、筆者の窪田氏は「日本の生命線が守られるかも」と指摘しているが、どういう意味なのか。
深刻な食料不足に陥る
しかし、平和ボケで技術信仰が強い日本では、国防というと核など最新兵器という発想にしかならない。現実の戦争を80年経験しておらず、最新兵器が活躍するアニメや映画の“ファンタジー的な戦争”しか知らないので、ミサイルや兵器があれば勝てると思っている。食料とエネルギーという国防で最も大事な生命線がスコーンと頭から抜けてしまっているのだ。
例えば、周辺国と「有事」が起きれば自衛隊が出動するわけだが、自衛隊員の皆さんはマシーンではないので、戦闘が長引けば長引くほど大量の食料が必要となる。戦火に巻き込まれないように避難する住民たちにも食料は必要だ。では、その食料をどこから持ってくるのかというと、海外から輸入するわけだが、有事なのでうまくいかない。
台湾有事などが起きてシーレーン(有事に際して確保すべき海上交通路のこと)が破壊されてしまうと、四方を海に囲まれている日本には、食料や石油を運ぶ船が近づけなくなってしまうのである。戦争が長引けば、自衛隊も避難民も、そして何かの形で戦争に参加している国民も食料不足に陥る。そうなるとあとはイモをかじって、「欲しがりません、勝つまでは」という例の精神論にすがるしかないのだ。
「今の豊かな日本でそんな話は現実的ではない」と思うかもしれないが、ならば上海を見てみるといい。ロックダウンでコンテナ船が港に入らず待機しているので、食料の奪い合いなどが行われている。食料をよそから持ってくるだけの都市の豊さなど、砂の城のようなものなので、あっという間に崩壊する。食料自給率37%の日本は国全体が上海のようなものだ。
これは、多くの専門家も警鐘を鳴らしている。例えば、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「有事」の際には減反政策も災いして、太平洋戦争のとき以上に深刻な食料不足に陥るというショッキングな分析をされている。
『小麦も牛肉も輸入できないので、米とイモ主体の終戦後の食生活に戻るしかない。当時の米の一人一日当たりの配給は2合3勺だったが、それでも足りなかった。米しかない生活というものはそういうものだ。終戦直後、人口は7200万人だったが、米生産は900万トン程度あった。しかし、今の人口は1億2500万人だ。2合3勺の配給でも1200万〜1300万トンの供給が必要なのに、農水省とJA農協は、減反で675万トン以下に供給を抑えようとしている。今有事になると、備蓄を含めても800万トンしか食べる米はない。当時よりも、小麦の生産も激減しているので、“すいとん”も満足に食べられない。数千万人が餓死するだろう』(日本の農業政策は有事に国民を飢餓に導く〜ウクライナ危機の教訓 4月6日)
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