「日清の“謎肉”がなくなれば、日本の生命線が守られる」は本当か:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
日清食品ホールディングスと東京大学は、日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功した。この報道を受けて、筆者の窪田氏は「日本の生命線が守られるかも」と指摘しているが、どういう意味なのか。
食料自給率が心配
こういう未来が見えているからこそ、国内で自分たちの力だけで食料を増やすことができる「培養肉」技術の確立が急務なのだ。
農林水産省によれば令和元年度の食肉の自給率(重量ベース)は牛肉が35%、豚肉が49%、鶏肉が64%である。「なんだ、けっこうがんばっているじゃん」と胸をなで下ろすかもしれないが、この数字は有事にガクンと落ち込む。牛も豚も鶏もわれわれと同じで、生きていくには「食料」が必要だ。そのトウモロコシなどを海外の輸入に頼っている。
この飼料自給率を反映した自給率は、牛肉は9%、豚肉は6%、鶏肉は8%である。シーレーンが使えなくて、人間の食料の輸入だけでも難しくなっていく中で、輸入トウモロコシも不足して価格も高騰する。農家は肉の生産どころではなくなってしまうのである。
そこで、培養肉の出番である。少ない餌で肉を増やすことができれば、日本人の食料自給に貢献できる。それでは畜産農家が食いっぱぐれるのではと心配する人もいるだろうが、培養肉が増えて一般に流通すれば当然、「天然肉」の価値は上がっていく。わずかな輸入飼料で、これまでよりも高く肉が売れることは、実は畜産農家の生産生向上につながっているのだ。
さて、こういう話をすると、「さっきから肉、肉ってうるせえ! 日本は海に囲まれているんだから魚を食えばいいだろ」と楽観視をする人もいるが、19年度の水産物の自給率は、食用魚介類(重量ベース)が56%で、こちらも半分近くを輸入に頼っているのが現実だ。しかも、水産庁によれば、輸入イカの46.7%は中国、輸入カツオ・マグロ類の12.5%が中国で、19.3%が台湾だ。もし台湾有事で、中国とにらみ合うことになればこれは吹っ飛ぶ。そのとき慌てて自分たちでイカやマグロの漁に出ようとなっても、船を動かすための燃料が高騰しているので、庶民は簡単に食べられなくなる。
また、日本は「養殖技術」が進んでいるというイメージもあるかもしれないが、生産量は94万6000トンでまだ全体の2割程度だ。さらにこちらも餌や燃料が必要なので、有事の影響をモロに受ける。
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