「日清の“謎肉”がなくなれば、日本の生命線が守られる」は本当か:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
日清食品ホールディングスと東京大学は、日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功した。この報道を受けて、筆者の窪田氏は「日本の生命線が守られるかも」と指摘しているが、どういう意味なのか。
イスラエルは「培養肉先進国」
このように「食の安全保障」を考えていくと、資源のない日本にとっては、先端科学で肉を細胞から増やしていく培養肉が最も適しているという結論にならざるを得ない。
事実、日本同様に資源のない国、そして「食の安全保障」というものに真剣に向き合っている国は、そのような結論になっている。実はイスラエルは「培養肉先進国」としても有名なのだ。
20年には世界で初めて培養肉を使ったハンバーガーショップができて、21年には、テルアビブから約20キロのところに世界初の産業用の培養肉生産施設がオープンした。これを応援しているのが国家だ。イスラエル経済産業省傘下のイスラエル・イノベーション庁は、培養肉企業で構成される培養肉コンソーシアムに1800万ドル(約23億円)の助成金を提供している。
ちなみに、日清と東大の培養肉研究も、科学技術振興機構の「未来社会創造事業 (探索加速型)」に採択されており、「1件最大3500万円程度で多数の探索研究を支援する。絞り込んだ後に1件最大7億5000万円の本格研究という設計」(日刊工業新聞 2020年8月27日)だという。金をかければいいというものではないが、国がかける意気込みがまったく違うのだ。
ここまでイスラエルが培養肉に力を入れているのは、ヴィーガンが多いからとかユダヤ教の戒律の関係だとかいろいろな分析があるが、筆者は有事に備えた「食の安全保障」が大きいと思っている。実はイスラエルは、米国やアルゼンチンに次ぐほど1人当たりの肉の消費量が多く、鶏肉の1人当たりの消費量にいたっては世界一だ。つまり、それだけ肉好きが多いということは、もし戦争になったとき、肉不足では前線の兵士や国民の士気を高めておくことができないということだ。
国民の腹を十分に満たさなければ、「中国や北朝鮮の脅威に屈するな」とか「日本の領土を守るため徹底抗戦」なんて呼びかけはすべて上スベリしていくだけだ。そんな安全保障の本質を残念ながら日本政府は理解していない。それがよく分かるのが、「投資」である。
培養肉を開発しているGood Food Institute Israelのレポートによると、21年には世界の培養肉企業への投資の中で、36%以上がイスラエルの企業に向けられている。そのスポンサーには、なんと日本企業もいるのだ。
22年3月、味の素がベンチャーキャピタルを通して、イスラエルの培養肉スタートアップ企業スーパーミートに出資している。味の素の発酵や食品の製造ノウハウを組み合わせて培養肉の商業化を進めるという。
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