カスタマーサクセスは「顧客の御用聞き」? 顧客との関係構築で陥りがちな”誤解”を解説(前編):【特集】カスタマーサクセスの始め方(2/2 ページ)
サブスクリプションモデルの広がりに伴い、「顧客の成功」を意味するカスタマーサクセスの重要性が高まり始めている。花王やキユーピーなど大手企業も部署新設に動き出し、盛り上がりを見せる。しかし、顧客の御用聞きやコストセンターといった誤った印象を持つ人もいるようだ。顧客との大事な架け橋となるカスタマーサクセスで陥りがちな誤解を解説していく。
カスタマーサクセスは「顧客の御用聞き」?
カスタマーサクセスには「LTVの最大化」「ファン育成」という2つの要素が重要といえそうだ。顧客の成功のために奔走することが求められるわけだが、一歩間違えば「顧客の御用聞き」のような立ち位置になってしまうのではないか、という疑問も浮かぶ。それに対し、KiZUKAIの山田社長は「カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い」を指摘する。
「カスタマーサクセスとよく比較されるカスタマーサポートという部署があります。カスタマーサポートは顧客から寄せられたクレーム処理などがメインの業務です。コールセンターなどが該当します。マイナスをゼロに近づけるチームで、受け身体制のため、顧客の御用聞きと言われてしまうこともあります。
一方、カスタマーサクセスは、顧客の成功と自社利益の両立を目指すプロフィット部隊。つまり、能動的な働きかけが必要です。顧客の潜在的な課題や要望を拾い、改善することで、顧客満足度の向上や継続利用につなげていきます。ゼロからプラスを積み上げていくイメージです」(KiZUKAI 山田社長)
そのため、カスタマーサクセスが追うKPIは、LTV向上やチャンレート(解約率)など、事業の利益に直結する要素になるという。ただ、カスタマーサクセス部署を置けば、LTVなどが改善されるかというと、そう簡単な話ではない。
コミューンの高原氏は「他部署との連携」が不可欠だと主張する。「カスタマーサクセス成功のためには、全社として取り組むべきという認識が必要だと考えます。顧客の課題や要望を分析していくと、製品やサービス自体の改善、料金プランの変更など営業部やマーケティング部などとの連携が必要になってきます。
しかし、部署ごとに目標があるため部署間で意見が衝突しやすいという課題もあります。カスタマーサクセスの観点から『こういうお客さんが自社のサービスには合っている』という情報が営業に渡ったとしても、営業部には営業部の数値目標があります。LTV向上につながるかもしれない潜在顧客の開拓も大事ですが、目標達成のための顧客獲得も並行して進める必要があります」(高原氏)
カスタマーサクセス部が連携が取れない閉じた部署になってしまわないためには、連携可能性が高い部署を横断的に見て、優先順位を決める旗振り役が必要になってくるという。
「顧客の成功」という言葉から、御用聞きやコストセンターと勘違いされがちなカスタマーサクセスだが、LTVの最大化とファン育成を担う重要なプロフィット部隊であることが分かる。
サブスクビジネスが広がってきたことで、カスタマーサクセスの重要性が明らかになってきたわけだが、売り切り型ビジネスには関係のない話なのだろうか。また、どのような課題が生まれたときにカスタマーサクセス部を置けばいいのか、toBとtoCでカスタマーサクセスの役割は変わるのか、後編ではこれらの疑問について解説していく。
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