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クルマのパワーとトルクの関係: 高根英幸 「クルマのミライ」(1/4 ページ)
実際に走りを左右するのはトルク、それも最大トルクではなく、それを含めたトルク特性こそが加速力と加速フィールを決める。
タイトルを見て、このコラムに関心をもって読み始めてくれた方は、クルマへの興味がある、もしくは無類のクルマ好きだろう。そんな方にとっては少々衝撃を受けるかもしれない。いや衝撃を受けてほしいのだ。なぜなら、思い違いに気付いてほしいからである。
それはエンジンやモーターの性能に関する表記やフィーリングに関わることだ。もっと具体的にいうなら、エンジンのパワーとトルクに関することである。
駆動輪を空転させて、テールスライドを維持するドリフト走行。エンジンパワーの成せる技だと思われているが、実際には路面を蹴るのはパワーではなく、トルクなのである(PHOTO/Oleg - stock.adobe.com)
さまざまな試乗記などで比較的多くみられる表現が、低速トルクと高回転域のパワーというエンジン特性の表現だ。発進時など低回転域での加速を低速トルクと表現して、そこからの伸びやかな加速と高回転域のフィールをパワー感と言い表しているケースが多い。
しかし加速Gを作っているのは、すべてトルクによるもので、パワーは単なる計算値に過ぎない。多くの人がパワー、すなわち最高出力ばかりに注目し、動力性能の高さをイメージしているが、それは厳密にいえば思い違いなのだ。
実際に走りを左右するのはトルク、それも最大トルクではなく、それを含めたトルク特性こそが加速力と加速フィールを決める。
高出力をうたうエンジンを搭載しているクルマの高い加速力や強烈な加速フィールを「エンジンの最高出力が高いクルマであるからだ」と思い込んでいる人がかなり多いようだ。自動車メディアの関係者でもキチンと理解していない人が非常に多いから、正確に伝え切れていないことがそもそもの原因だろう。
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