実は米国では導入済みの”内部留保課税”、ただし実現すれば失業大国にも?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
定期的に議論に上る内部留保課税。実は米国では内部留保課税が全企業に適用されている。しかし、そこにはメリットとデメリットが存在している。
内部留保課税のメリット・デメリット
今回、さまざまな政治家が提唱する内部留保課税の方針は、現在すでに特定同族会社に内部留保課税の制度があることから、これを一般企業に拡大するという米国的な制度に拡大していく狙いがあると考えられる。
ここで、内部留保課税が一般化した場合のデメリットについて検討したい。というのも、コロナ禍において日本の「内部留保」は、守るべき従業員にとって大いに役立ったという事情もあるからだ。
内部留保は人間の「脂肪」に例えられることもままあるが、やはり飢餓状態でも生存率が高まるのは脂肪を一定量蓄えている人間である。ここで日本と米国の失業率を比較すると、日本においてはコロナショックが発生した20年第1四半期から第2四半期にかけてそれほど失業率は高まっていない。
一方で、普段から株主還元などにいそしんで脂肪を燃やしてきた米国では、失業率が短期的に3倍以上の13%にまで増加した。そこからコロナ前の水準に落ち着くまでおよそ2年の歳月をかけている。
ここから考えると、内部留保に対する課税は企業の積極的な投資を促すことから、平時における経営効率の高まりが期待できる。その一方で、緊急時への備えという観点では、平時の積極投資が裏目に出てしまうデメリットもありそうだ。
米国のように解雇の自由度や人材の流動性が高い状態であれば、内部留保課税のために賃上げや株主還元を積極的にしてもいざというときに機動的にリストラクチャリングを行うことができる。一方で、それと逆の日本のような環境では、企業の利益剰余金は、緊急時でも雇用を守り、従業員の給与を保障するための保険として積み立てられている側面も強い。
そうすると、内部留保課税を行うにしても、基本的には租税回避や、従業員・株主還元を不合理に行わないという極端なケースで限定的に適用されていくべきものであると考えられる。
もし、そのあたりの工夫がないままに内部留保課税が導入されてしまえば、日本は米国並みの失業大国になる危険性もあり得るのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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