日本企業のサステナビリティ(ESG)開示に関する誤解と収益機会:フィデリティ・グローバル・ビュー(4/4 ページ)
日本企業のサステナビリティ(ESG)・レーティングは、欧州企業に比べて通常低い格付が付与される傾向にあります。しかしこれは情報開示に対する考え方や言語といった文化的な理由によるものが要因だと考察しています。
ESGレーティング向上からメリットを得るポートフォリオの構築
企業がサステナビリティに関する情報開示を行っていけば、ESG評価機関によるESGレーティングが向上し、市場はプレミアムを付与します。日本がESGレーティングでヨーロッパの同業他社に追いつくまでにはまだ時間がかかるものの、その解決策は比較的簡単なものです。日本企業は適切なサステナビリティ戦略を持っており、単にその情報開示の重要性を認識する必要があるのです。
ファクトリー・オートメーションなどの部品を扱うミスミグループもESGレーティングを改善できる可能性のある企業だと考えています。同社は、生産改善を含め顧客の非効率解消につながるソリューションが強力なビジネスモデルとなっており、環境への貢献は明らかですが、ESGレーティングは低い状況です。フィデリティは現在、同社と議論を進めており、経営陣は自社のESGレーティングが不十分な情報開示に起因していることを理解しています。
今後、日本企業の経営陣はサステナビリティの情報開示を財務データと同様に重視していくものと考えます。より早く、またより良い情報開示を行う企業を見つけ出すーー例えば、そうした企業をエンゲージメントを通じて見出していくーーことでアルファ(投資における超過利潤)獲得の機会が向上する可能性があります。
投資家にとって、サステナブル企業として上位にランクインしている企業とレーティング向上の可能性のある企業をポートフォリオの中で組み合わせることは理にかなっています。これらの企業はサステナビリティにおいて競争優位性があり、長期的に資本コストを上回るリターンを生み出すと考えられます。フィデリティは、ボトムアップ・アプローチと蓄積されたノウハウに支えられたエンゲージメントを通じて、企業と連携を図り、どのような点をアドバイスすれば取組みが改善され、ESGレーティング向上によるメリットを得ることができるかを常に模索しています。
※注:記事は2021年5月18日に執筆されました
井川 智洋
フィデリティ投信 ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャー
投資する企業や将来の投資先企業のサステナビリティー課題解決に向けた対話(エンゲージメント)を通じ、企業価値向上に貢献できるよう活動しています。
また、ESGインテグレーションを推進する観点から、ポートフォリオ・マネージャーも兼務。
【ESGコラム】サステナビリティ(ESG)開示に関する日本企業の評価と収益機会
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