「天下一品」が大好きな小学生の折り紙は、なぜ社長に届いたのか:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
ラーメンチェーン「天下一品」の店舗に、男子小学生から折り紙が届いた。その男の子は病気と戦っていて、大好きな天下一品に作品を送ったというのだ。同社の社長は小学生と面会する予定だが、この話をどのように受け止めた人が多いだろうか。SNS上でも話題になっていて……。
「ファン」との距離
実はこの天下一品のようなスタイルはかなり珍しい。有名ラーメンチェーンの多くは、そこまでファンマーケティングに力を入れていないからだ。
ファンを軽視しているとかではなく、職人気質というか、「オレたちのラーメンはいろいろな“こだわり”があるから、それを分かってくれる人たちだけ食べに来てよ」という感じの、どちらかといえばプロダクトアウト的なマーケティングが一般的だからだ。
この最高峰が「ジロリアン」と呼ばれる熱狂的信者を擁(よう)する「ラーメン二郎」だ。店舗によってまちまちだが、ラーメン二郎には注文に時間をかけてはいけないとか、麺を残してはいけないとか、スマホを見るななど、「店が客を選ぶ」というような暗黙のルールが存在している。
店側は決してファンに媚(こ)びないし、ファンの意見で味やルールを曲げることもしない。「味には絶対の自信があるし、ウチの店のやり方がある。それをちゃんと理解して受け入れてくれる客だけ来てくればいいですよ」というガンコ職人のようなスタンスを打ち出すことが、熱烈ファンを生んで成功すると考えられているのだ。
このラーメン業界のプロダクトアウト文化を象徴するのが「ファンサイト」や「YouTube」である。ラーメン二郎や、旨辛ラーメンが人気の蒙古タンメン中本でも、ファンサイトは熱烈なファンがつくっている。自分たちのWebサイトは、メニュー、店舗情報、歴史、こだわり、くらいの非常に淡白な内容だ。
YouTubeもそうだ。どちらも公式チャンネルは設置しておらず、有名人やユーチューバーがファンということで勝手に紹介をしており、それらの動画に「協力する」というスタンスで、社長などゲスト出演するという一歩引いた関係性なのだ。
これは他の有名チェーンにもいくつか見られる。店とファンの間にちょっと「距離」があるのだ。批判をしているわけではなく、「職人気質」という作り手の価値をあまり下げないためには、どうしてもファンとは一線を画さないといけない。もしラーメン二郎が客からの「子どもでも食べられる優しい味にして」なんて意見を受け入れて商品開発したり、公式YouTubeをスタートして、店長とファンが仲良く意見交換したりすれば、昔からの熱心なジロリアンは大量離脱してしまうだろう。
ラーメン店は「味」はもちろんのこと「職人のブランディング」がかなり重要なビジネスなので、店側がファンと協力し合って盛り上げていこうというファンマーケティングはあまり相性がよくないのだ。
しかし、天下一品はそういうラーメン業界の常識とやや違うスタンスなのだ。
もちろん、自分たちの味にこだわりや自信があるのは当然だが、「ひとりでも多くの人に天下一品を食べてもらいたい」という姿勢があるので「ファン」との距離が近い。熱烈なファンの意見にも耳を傾けており、柔軟にメニューなどに反映されたりする、というマーケットインの姿勢がはっきりとしている。
そのため、ファンを非常に大切にして、一緒に成長をしていこうというファンマーケティングにも、他のラーメンチェーンよりも力を入れている印象が強いのだ。
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