「歩いて稼げる」STEPN、崩壊論高まる 大物投資家のSNSが中国封鎖引き金か:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(7/7 ページ)
現実世界で歩いた分だけお金が稼げる「STEPN」は、世界で200〜300万ユーザーを獲得した注目のブロックチェーンゲームだ。しかし5月末に中国ユーザーの規制が発表されると、ゲーム内のNFTやトークンの価値は数日で暴落。とはいえ中国当局に目をつけられないよう先手を打ち、うまく対処している。
政府系メディアも一定の評価
習近平体制の中国政府は仮想通貨だけでなくオンラインゲーム、SNSなど、20世紀にはなかった中毒性を帯びたITサービスに非常に敏感だ。
ブームが過熱し、「度を超えた」と判断したとき、政府系メディアで糾弾記事を出したりアクセスを突然遮断し、強制排除する。その後に厳しい業界規制が導入されることも少なくない。
音声メディアのClubhouseは20年1月31日、中国でカリスマ的人気を誇るテスラCEOのイーロン・マスク氏が「今夜、Clubhouseで配信する」とツイートしたことで中国人が殺到してサーバダウン、そのわずか1週間後の8日に中国から接続できなくなった。この件についても、筆者の過去の記事で紹介している。
それを考えると、投資家の投稿によって注目が高まったタイミングで、「中国本土を歩いているユーザーはゲームに参加できない」と規制を守るスタンスを明確にし、かつ、既にプレイしているユーザー向けに45日間の猶予を与えて朱氏のメンツも立てたのは、中国の仮想通貨を巡る環境を考えると限りなく最善に近い対応といえる。
共同創業者の2人は華人で、うちJerry Huang氏は名門・浙江大学を卒業している。中国メディアの報道によると、CEOやマーケティングチームはオーストラリアなど海外在住だが、CTOを含む開発チームは中国にあるという。だからSTEPNは中国当局も中国ユーザーも決して敵に回すことはできない。
政府系メディアの経済観察網は6月6日、STEPNについて考察記事を掲載し、STEPNがポンジ・スキームに陥る危うさを持ち、期待収益が高すぎると不正の巣窟になるとのリスクを指摘しながらも、ブロックチェーン技術などによって構築される次世代分散型インターネット「Web3.0」の注目プロジェクトであると説明。
「Web3.0の名を利用したどうしようもないプロジェクトが多く出るだろうが、その中に次のグーグル、アマゾンが紛れているかもしれない。規範と成長のバランスが取れた規制が必要だ」と、STEPNに好意的な態度を見せた。
経済観察報は21年、「オンラインゲームは精神のアヘン」という糾弾記事を掲載し、米中のゲーム企業株の暴落の引き金を引いたメディアで、当局の代弁者とも目されている。
中国政府は仮想通貨を禁止しているが、ブロックチェーンは推進するダブルスタンダードを取る国でもある。経済観察網の論調を見ても、当局は今のところSTEPNを潰すより育てたいと考えているのではないだろうか。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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