氷河期支援、正規30万人増めざす→実績は3万人 国の施策が機能しない根本的な矛盾とは?:日本の雇用課題にメスを(2/4 ページ)
政府が直近3年間で就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標を掲げていたが、実績はわずか3万人に留まる。政府の施策のどこに問題があるのか。
ただ、コロナ禍が生じたとはいえ、さまざまな施策を講じているにもかかわらず、正社員数を30万人増やす目標に対して実績が3万人と大きな乖離が出てしまっているのは、そもそも就職氷河期世代に限定して正社員を増やそうとする目標や施策自体が妥当なものではない可能性があるのではないでしょうか。疑問として大きく3点挙げます。
氷河期世代の正社員採用が難しい3つの論点
1つは、就職氷河期世代は93〜04年に就職活動していた年代ですから、少なくとも社会に出てから18年は経っていることになります。日本は年功序列ありきの人事システムを基本にしていることを踏まえると、もし一度も正社員として就業した経験がない人材を採用しようとする場合でも、社歴18年以上の社員と比較されてしまうことになります。
会社としては、既に幹部として活躍する人も多いであろう同年代の正社員たちと同水準の給与ベースで迎えるのは難しく、だからといって新卒一年目と同等の給与にするというのも、やはり年代上の整合性がとれません。就職氷河期世代の採用に当たって、年功序列のシステムは正社員として入社する人にとっても、採用する会社側にとってもやりづらい環境です。
2つ目は、解雇周りのルール整備が不十分なため、正社員採用はハードルが高いことです。昨今、理化学研究所や東北大学などで働く有期雇用の研究者が、無期雇用転換できる権利が発生する上限10年を超えないよう一斉に雇い止めされる可能性があると指摘されています。一流の研究機関で職務に当たるほど優秀な人材であっても無期雇用に転換しづらい背景にあるのは、将来的に余剰人員になってしまうかもしれないという経営上のリスクです。
もちろん、安易な解雇が認められるべきではありませんが、いざとなった時に解雇するという選択が実質的に不可能となれば、無期雇用が前提となる正社員の採用に対して会社側はどうしても慎重になってしまいます。それは当然ながら、就職氷河期世代の採用にもネガティブな影響を与えることになります。
3つ目は、正社員という働き方は会社からの束縛が強く、窮屈な働き方であることです。会社が強い人事権を持ち、時に本人の意に反した職種や勤務地への異動を命じられることもあります。また、残業を厭わず長時間拘束されることも覚悟しなければなりません。
しかし、中には特定の職務限定でスキル・経験を磨きたいと考える人がいます。また、社会に出て18年以上経つ年代層の多くは、配偶者や子どもがいるなど家庭を支える立場です。家庭の事情で勤務地限定、短時間、短日数で働くことができるなど、正社員ではありつつも柔軟性を有した形での就業を望む人もいます。就職氷河期世代には、長期安定的な就職を望みつつも、職務も勤務地も無限定で長時間労働を基本とする正社員と呼ばれる働き方が合わない人たちが多数存在するのです。
これらの根本的な課題が解決しないまま、就職氷河期世代だけの正社員数を増やそうとしても、そう簡単に事が運ぶはずがありません。
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