氷河期支援、正規30万人増めざす→実績は3万人 国の施策が機能しない根本的な矛盾とは?:日本の雇用課題にメスを(4/4 ページ)
政府が直近3年間で就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標を掲げていたが、実績はわずか3万人に留まる。政府の施策のどこに問題があるのか。
まずは、年齢差別の廃止です。年功序列や定年など、一定の年齢で人の能力を一律に決めつける考え方を無くさなければ、就職氷河期世代が抱える18年以上の時間差はいつまで経っても大きな壁となります。年功序列によって、新卒1年目の社員の給与は不当に低く抑えられてしまっています。一方、一定年齢以上になると、社員の多くは実際の働きよりも多くの給与を受け取ることになります。
このような年齢差別があるうちは、正社員としての実務経験年数においてハンデがある「就職氷河期世代支援プログラム」の支援対象者には不利です。年齢ではなく、従事する職務や役割などに応じた形で給与が支払われるならば、採用時に同年代だからと18年以上勤務した正社員と比較されることなく、ありのままの評価を受けやすくなります。
また、多くの会社において定年年齢は60歳で設定されています。しかし、93〜04年に就職活動した就職氷河期世代の場合、仮に93年に浪人することなく博士課程を修了していれば27歳。22年時点だと56歳となり、定年まであと4年です。正社員としての実務経験が少なく、かつ4年で定年を迎える人材を採用することに、会社側がネガティブになる可能性を否定できません。定年にも人の能力を年齢で一律に決めつける年齢差別の側面があります。
支援を氷河期世代に限定してはいけない
次に、正社員と呼ばれる雇用形態に柔軟性を持たせることです。無期雇用の維持を優先する代わりに、長時間労働を基本とし職務も勤務地も無限定で会社から強い束縛を受ける従来型の正社員もあって良いと思いますが、職務や勤務地や勤務時間などを限定する一方で、条件を満たせない事情が生じた場合は、会社側からの申し出で雇用契約を解消できる制度も認めれば、会社にとっても就職氷河期世代の働き手にとっても選択肢が増えます。
このような柔軟な正社員のことは限定正社員などと呼ばれてきましたが、限定した条件を満たせない事情が生じた場合の扱いについて議論が進まないまま現在に至ります。無期雇用を基本としつつ、働き手が希望する限定条件を認める分については会社からの束縛が緩むことを踏まえ、限定条件が満たせなくなった場合のみ会社側からの申し出で雇用契約を解消できる制度まで踏み込んで検討しない限り、就職氷河期世代の正社員採用促進を阻む硬直性は克服が困難です。
就職氷河期世代にフォーカスしたからこそ見えた課題は、新卒採用時に望ましい就職がかなわなければ、その後の職業キャリアにおいて長くハンデを負ってしまうという日本の雇用制度全体に関わる欠陥です。
その対処策として、就職氷河期世代に特化した支援は大切だと思います。しかし、それだけでは十分な効果は期待できません。並行して、就職氷河期世代に限定せず、全世代を対象とした、誰でもいつでも何度でもやり直しができる就業環境を構築するための施策が必要なのです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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