稼働率100%の部屋はなぜ生まれた? アパホテルの「宿泊客を飽きさせない工夫」:37年連続黒字の秘けつ(3/3 ページ)
2022年4月に開業したアパホテル〈なんば心斎橋東〉にて初めて採用した「とある部屋」のGW中の稼働率は100%を記録した。なぜそのような部屋が生まれたのか? そこにはアパホテルの「飽きさせない工夫」があった。
月額約9万円のサブスク、収益は1億6500万円に
伝統や格式にとらわれないアパホテルの姿勢は、コロナ禍のサービス展開からも見て取れる。1回目の緊急事態宣言が発出された20年4月、全国のアパホテルの平均客室稼働率は30%にまで落ち込んだ。そこでアパホテルでは、翌5月10日〜6月30日の期間限定で、1室1泊2500円の「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」を全店で展開。空室にしておくよりは、低料金でも稼働させたほうがいいのは言うまでもないものの、伝統や格式を重んじるホテルでは、こうした思い切った対策はとれないだろう。このキャンペーンで20年6月の稼働率は一気に72%まで上がったとのことだ。
また21年5月からは、月額9万9000円で全国150以上のアパホテルが泊まり放題になる「全国サブスクプラン」をスタート。当初は7月末で受け付け終了の予定だったが好評を受けて9月末まで延長した。最終的には1672件の申し込みがあり、収益は1億6500万円に上ったという。
「一泊3300円という非常に安い料金だが、ホテル側からすれば売り上げは増える。あるニーズを根こそぎ取りたいという考えで敢行した。サブスクの受け付けは終了したが、稼働率が下がったら再募集も検討している」(元谷社長)
アパホテルは業界の砕氷船
元谷社長が宿泊客のニーズに敏感なのは、現アパグループ会長であり、父親でもある元谷外志雄氏の教えによるものだ。
「父に言われた『情報感度が低い人間はビジネス感度も低い』という言葉が今も心に残っている。私自身は雑学が好きなので、情報の網を広く浅く張っている」と元谷社長は明かす。また元谷会長からは「ほかの業界の成功事例をホテル業界に置き換えてみろ。それが日本初、業界初かという観点で企画を立てろと。それが私には響いた」という。
そのアドバイスが形になったのは22年5月のこと。宿泊実績に応じて会員ステータスがアップする会員制度を開始した。年間20泊以上宿泊する利用者には「APA Stayers Club Card(アパステイヤーズクラブカード)」のインビテーションを送付。これは、JALやANAのマイレージクラブのホテル版だ。元谷社長は「ホテル業界でリピーターを増やす方法の1つとして参考にした。他社がやっていない取り組みだと思う」と胸を張る。
リピート率の高さもアパホテルの強みの1つだ。アパホテルに初めて宿泊したお客の約75%がおおむね1年以内に再度宿泊しているという。コロナ禍はホテル業界にとって大きな痛手となった。リピート客の存在はアパホテルにとって大きかっただろう。元谷社長は、コロナ禍が終息しても、外国人観光客が本格的に戻るのは24年以降とみている。「25年には大阪・関西万博(日本国際博覧会)もある。これは東京五輪よりも需要としては大きくなる」(元谷社長)
常に他社がやらないことに目を向け、進化を続けていくアパホテル。そこから生まれる新しい体験が宿泊客の満足度を高め、また宿泊しようという気持ちにさせている。
「アパホテルは業界の砕氷船。アパホテルが氷を砕いて進むと『アパホテルが新しいホテルでこんなことをやっている』と、他のホテルが付いてくる。真似されるが、先行者メリットが取れるから、うちはそれで構わない」と元谷社長は自信を見せた。
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