社長が360度評価をやってみたら――評価が散々!? 社員からサジを投げられていた企業が、それでも変われた理由:事例で見る、経営層と現場ギャップの埋め方(3/3 ページ)
組織の課題が浮き彫りになったとき、経営者の多くは現場の社員たちに「変わること」を求めるのではないだろうか。社長自らが率先して課題に向き合い、それを管理職や現場の社員たちに波及していった好例が、シーベースの取り組みだ。代表取締役の深井幹雄氏をはじめとする4名に、自社変革のプロセスについて聞いた。
リーダー層が目に見える形で変化していったことで、その姿を見た現場のメンバーも会社の将来に希望を抱けるようになっていったという。そのタイミングで、現場のメンバー層に対してもグループコーチングを実施。現場の思いをくみ取れる体制を作っていった。
ここでも「自分のグループの業務は知っていても、他のグループの業務内容を理解していない」という社内の課題が見えてきた。グループコーチングを通して互いの業務への理解が進むにつれて、仕事を進めやすくなったり、考えられる範囲が広がっていったりして、主体的な姿勢に変わっていったという。
バーチャルオフィスでコミュニケーションをさらに活性化
同時に、リモートワーク下でも社内のコミュニケーションを取りやすくするための施策として、バーチャルオフィスツールを導入。今、誰が忙しいのか、誰の手が空いているのかといったことが把握できるようになり、気軽に話しかけられる雰囲気が生まれたという。
さらに、月1回、社員1人が主役となり、他の社員から自身に関するさまざまな質問を受けることで相互理解の機会とするイベント「Ask Me Anything」を開催するなど、バーチャルオフィスツールは業務連絡以外のコミュニケーションにも積極的に活用している。
診断結果には大きな変化が
このような取り組みを約1年にわたって根気よく続けた結果、22年4月に実施した組織診断では大きな変化が見られた。
「評価『3』未満も多かった前回の結果に対し、多くの指標が“高い”を示す『3.8』以上となりました。その後社員の声を聞くと、今回の診断結果は建前ではなく、実態としてこのくらいの感覚で受け取られているのを感じます」(谷江氏)
さらに、360度評価も1年ぶりに実施。そこで深井氏に対して集まったフィードバックも、会社全体の成長が見てとれるものだった。
「この1年での変化について、『意見を受け止めてくれている』『変わろうとしている姿勢がある』というコメントをもらい、社員は本当によく見ているなと思いました。社長や社員というのは、あくまでも役割だけの話であって、会社をよくしていこうという思いの上ではフラットな関係なんですよね。社員がきちんと見てくれているからこそ、それに対してきちんと答えていかないといけないし、社員だけに理念を押しつけても会社が変わることはできないとあらためて感じました」(深井氏)
今回の取り組みのきっかけは、フルリモート化によってコミュニケーションのすれ違いが顕著になったことではあったが、冒頭に述べた通りそれ以前から問題は内在化していたと深井氏は強調する。
「認識がすり合わない、コミュニケーションがない、成立しないということは、実はオフィスで会っているときも起こっていたのですが、当時は空気を読んでごまかすことができていました。リモートになったから問題が起きたのではなく、それ以前から抱えていた課題が浮き彫りになったに過ぎないと思っています」(深井氏)
ツールを導入するだけでは変わることはできない
同社が変わっていくプロセスに伴走してきた中村教授は、同社の変革が順調に進んだ理由をこう分析する。
「多くの場合、経営層は仕組みを作ったり、ツール導入を決めたりといったことまでは行うのですが、自ら変わろうとはしないものです。深井社長の場合、自ら成長していこうとする姿を見せたことで、本気で変わろうとする思いがリーダー層に伝わり、そのリーダー層が変革推進者になって現状を変えていきました。
会社を変えたいから仕組み作りをしました、ツールを入れましたという話をよく耳にしますが、仕組みやツールだけで問題が改善されるわけではありません。変わっていこうという機運が高まったところに仕組みやツールがマッチしたことで、それらをうまく使っていこうという流れができたのだと思います」(中村教授)
組織の問題に対して、「業績が良くないのは部下のせいだ、技術的な能力が足りないからだ」と考える経営層もいるかもしれない。深井氏のように、経営者自身の行動が巡り回って部下のモチベーションにつながること、それが業績にも影響することを意識して行動できるケースは「例としては珍しい」と、中村教授は説く。
「組織の問題を自身の問題として認識するために、360度評価は役立つものだと思っています。組織診断の場合、経営者は『自分自身の問題ではない』と言い訳ができてしまう。しかし、360度評価はまさに自分自身に対するフィードバックで、言い逃れができません。現状を見つめるためには、ぜひ経営者も受けたほうが良いと思っています。日頃フィードバックを受ける機会のない経営者こそ、意識的に評価される場を設ける。これこそ、組織改革の第一歩なのではないでしょうか」(深井氏)
関連記事
- “時代錯誤”から残業ゼロ、週休3日に! 鳥取の不動産会社がレガシー企業からDX先進企業になれたワケ
スケジュールをホワイトボードで管理し、書類は紙に記入してファイルにとじる。そんなアナログな環境から見事DXを果たしたウチダレック(鳥取県米子市)。地方企業としては珍しいDXノウハウ書籍『超効率DXのコツ』まで出版した、その極意とは? 書籍の著者でもあり、同社専務でもある内田光治氏に話を聞いた。 - SDGsとDXの関係は? 企業が取り組む知られざるメリットと実現のために求められる意外なスキル【前編】
ある種のバズワードのようになっているSDGsやDX。これらは無関係のように見えるが、実は両者が目指しているものは同じだという。パーソルイノベーションの柿内秀賢氏に、なぜSDGsやDXが必要なのか、そして企業が取り組むメリットを聞いた。 - SDGsとDXの関係は? 企業が取り組む知られざるメリットと実現のために求められる意外なスキル【後編】
現在の専門性に新しいスキルを足すことで変化に適応する「リスキリング」が注目されている。SDGsへの取り組みを推進した結果リスキリングを余儀なくされるケースもある。なぜ、リスキリングが必要なのか、前向きに取り組むにはどうしたらよいのか。そして、それらを踏まえて企業がSDGsに取り組むメリットについて、パーソルイノベーションの柿内秀賢氏に聞いた。 - おじいちゃんIT人材が爆誕!? AI分野で、どんな業務を任せているのか
定年の65歳延長を控え、企業がシニアをどう活用していくかが課題となっている。高齢者には縁遠いイメージのあるAI分野の業務にシルバー人材を活用するライトカフェ(東京都渋谷区)に、雇用の背景や円滑に業務を進めるための工夫を聞いた。 - まるで「就活版ネトフリ」? Z世代の価値観にマッチした「動画就活」が注目されるワケ
コロナ禍によって、企業の採用活動は変化せざるを得なくなった。面接はオンラインへ移行し、限られた情報から判別しなくてはならない状況となっている。そこで注目されているのが動画の活用だ。これはZ世代の価値観にもマッチしているという。企業と学生の双方が動画を出してマッチングを行うプラットフォーム「JOBTV for新卒」を提供するベクトルの在原氏に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.