トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
「特別」をキチンと届ける
そのように歴代モデルの履歴を重ねていくことはいろんなメリットがあるはずだ。今回のプランに入っているパーソナルカスタマイズメニューだって、「ファーストエディションでこうだったから、GRMNではこう仕立てましょう」という具合に知見が積み上がる。
ちなみにパーソナルカスタマイズメニューというのは、車両やロガーに残ったユーザーの運転データを分析し、併せて、ユーザーの好みなどをヒアリングして、クルマのさまざまなセッティングをオーダーメイド的にパーソナルカスタマイズする仕組みであり、そのセッティングを出すのはGRの選抜エンジニアである。
エンドユーザーのひとりひとりにそんな手間暇を掛けて割に合うのかと疑問に思って聞いたら、トヨタ側から見ると、ひとりひとりのお客様の実際の使い方のデータと、本人の証言や希望をいっぺんに収集するまたとないチャンスであり、そこで集めて積み重ねられた知見が、次の新型車に生きてくるのだと言う。要するにアフターサービスではあるが、同時に開発のための重要なリサーチでもあるのだ。
ということで、まず限定車の予約を完全平等にするのは止めるべきだ。ロイヤルカスタマー優先にする。その代わり値段はもっと高くても良い。少なくとも1000万円。なんなら1300万円くらい取ったらどうだろう。少なくともGRMNヤリスにはそのくらいの価値はあるし、どうせ500台限定ならプレミアが付くので、客だって損はしない。
そして納車時に、GRMNオリジナルデザインのレーシングスーツと、レーシングシューズ、グローブ、ヘルメットをプレゼントすればいい。当然採寸してオーダーメイドである。できればシャシーナンバーを刺繍(ししゅう)とかで入れてあげよう。なに、全部併せたって大した額ではない。その分は売価を十分に上げればいい。ポイントは専用デザインであることだ。ほかでは手に入らないところに価値がある。
そして富士モータースポーツフォレストで、GRMNユーザー専用の練習日を作って、トヨタワークスのドライバーたちからレッスンを受けられるようにすればいい。自分のクルマを使うのが嫌な人もいるだろうから、レンタル用のGRMNをサーキット仕様とダートラ仕様も何台か用意しておけばいいだろう。
若干暴走気味のアイデアも付しておこう。素人がGRMNヤリスでS耐に出場するまでをパッケージにした、ジェントルマンドライバー(アマチュアドライバー)育成・サポートプログラムとかをルーキーレーシング辺りでやるのはどうか? いやそんな人はたぶんいないだろうが、そういうスゴいところまで道がつながっているという可能性を提示するのは大事だと思う。
さて話は戻って、GRMNユーザーの運転講習とのセットプログラムとして、サーキットホテルのレストランで、開発ドライバーとの昼食会でも開いて意見を聞くのもいいだろう。これも開発のためのヒアリングである。客の側にしてみれば、自分が買ったクルマについて開発エンジニアに対してひとくさり意見が述べられる。「いや、オレさ、開発エンジニアに言ってやったんだけどさ」みたいな武勇伝が完成するのだ。もちろん、諸々が許すならモリゾウ選手との会食ならとびきりプレミアムだ。
とにかくこういう人たちからは、たっぷりお金をいただいて、その代わり「特別」をキチンと届けることだ。それが限定車の予約枠であり、ほかでは手に入らないレースギヤであり、レッスンや会食である。
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