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トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。

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上顧客との関係作りからレクサスのビジネスへ

 トヨタはこうした上顧客とのコミュニケーション技術を磨くべきである。ロイヤリティユーザーに500台の限定を先行予約させるにしても、思った以上に注文が来てしまうこともあるかもしれない。全部が上顧客だからそれはそれは厄介なことになる。それをどう配分し、お客の気持ちをつなぎ止めるかを考えるのは、営業の仕事だ。

 上顧客の中の上顧客には、公式発表前に担当営業がこっそり囁(ささや)いて、予約を取っておく。こういう情報を誰に渡し、誰をそこから抜くかをちゃんと戦略的に考えることはとても重要だ。客からすれば「あいつがアポを入れてくるってことは、なんかスゴいのが出る前触れかな」というように、有用な情報源になっていく。それが信頼関係だ。

 スペシャルモデルを売らない相手にはどうするのか? 例えば、実情としてはお金的に少し苦しいユーザーに見当を付けて、フェーズ2にダウングレードしてもらって、でもレースギアやレッスン枠とかは何とかしましょうとかでも良いだろう。

 要するに世の中の全てが公明正大なわけじゃない。オープンで明朗なことは一般的には大事だが、それだけでは通じない世界も世の中には存在する。そういう曖昧でスタンダードが無い世界に慣れるべきで、そういう交渉がちゃんとできるかどうかがプレミアムビジネスの成否を分ける。

 そうして、こういう顧客との新しい関係構築術をしっかりマスターしたら、それをアレンジしてレクサスのビジネスへと展開していくべきだろう。そう考えるとこのビジネスのスケールはかなり大きい。そこへ進むためのひとつながりの一歩に成り得るGRMNヤリスのビジネスはもうちょっと工夫すべきだったのではないだろうか?

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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