ハシモトホーム自殺事件から考える、パワハラがなくならない4つの理由:侮辱賞状は「余興のつもり」(2/5 ページ)
青森の住宅会社ハシモトホームで起きたパワハラによる自殺事件が話題となっている。「あーあって感じ」などと書かれた被害男性を侮辱する賞状は、「余興のつもり」で渡されたという。こうした報道から見える、パワハラがなくならない4つの理由とは──?
パワハラ防止法が施行されたが、実態は……
悪質なパワハラ被害が発覚すると、マスメディアで大きく報道され、読者や視聴者からも強い非難が集中する。このような報道や反応を見る限り、職場内でのハラスメントに対する社会的な認識は年々高まり、「パワハラはいけないことだ」との認識が十分浸透しているように感じられるかもしれない。
実際に、パワハラを防ぐための法律、通称「パワハラ防止法」(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)も19年6月1日から施行された。当初の適用対象は大企業のみで中小企業は「努力義務」だったが、本年(22年)4月1日からは中小企業も適用対象となった。
パワハラ防止法の趣旨は「事業主は、職場でのパワハラ発生を防止し、解決するための策を講じなければならない」というもの。
元より職場でのパワハラは「いけないこと」ではあったものの、その防止についてはあくまで各職場における努力義務でしかなく、法的な定義も定まっていなかった。それが今般の法律施行により、「職場におけるパワハラ対策が事業主の義務」となったのだ。
事業主はパワハラ防止策を講じるのみならず、パワハラ相談者や加害者のプライバシーを保護すること、そしてパワハラ相談者を解雇するなどの不利益な扱いをしないこと、といった措置が求められることになっている。
厚生労働省告示第5号による、パワハラ防止法のポイント3点
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
パワハラには厳正に対処する方針を明確化し、労働者に周知・啓発しなければならない
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラの相談窓口を整備するほか、担当者が適切に対応できるよう、マニュアルや仕組みを整えなければならない
3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮、そして加害者への厳正な措置をせねばならない
パワハラ防止法に従っていれば理論上、現時点で全ての企業においてパワハラ対策がとられているはずだ。
しかし、残念ながら実態は異なる。日々報道されるパワハラにまつわるニュースがその証左であるし、各都道府県の総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談件数、助言・指導の申し出件数、あっせん申請件数の全項目で、「いじめ・嫌がらせ」が10年増加傾向を続けていることからも明らかである。
もちろん、この相談件数の中には、「これまで、暴言などは当たり前の指導の範囲だと思っていたが、パワハラ事件として報道されたケースと似ていたため、実は自分もパワハラに遭っていたことに気付いた」といった、「パワハラにまつわる問題意識が浸透した結果として被害が顕在化したケース」も含まれていよう。それは一つの成果かもしれないが、だからといって全体の件数が依然として増加傾向であることは否めない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「氷河期の勝ち組」だったのに……40代“エリート課長”に迫る危機
自分をエリートだと信じて疑わなかったサラリーマンが、社内の方針転換により出世のはしごを外されることがある。エリート意識や、能力主義への妄信が生む闇とは──?
「底辺の職業ランキング」を生んだ日本 なぜ、差別とカスハラに苦しめられるのか
新卒向け就活情報サイトが公開した「底辺の職業ランキング」を挙げる記事が物議を醸している。記事が炎上した一方で、実際に一部の職業の人たちをさげすみ、差別する人がいることも事実だ。日本社会にはびこる差別とカスハラの正体とは──。
“スーツ姿の客”がネットカフェに急増 カギは「PCなし席」と「レシートの工夫」
コロナ禍で夜間の利用者が激減し、インターネットカフェ業界は大きな打撃を受けた。そんな中、トップシェアを誇る「快活CLUB」では、昼にテレワーク利用客を取り込むことに成功、売り上げを復調させた。そのカギは「PCなし席」と「レシートの工夫」にあるという。どういうことかというと……。
格差が広がる日本 週休3日の“貴族”と、休みたくても休めない“労働者”
「週休3日」に注目が集まっている。大企業が相次いでこうした先進的な制度を導入する陰で、休みたくても休めない労働者の存在が置き去りにされている。日本の働き方改革は、どこへ向かうのだろうか──。
これは立派な社会問題だ――「働かないおじさん問題」と正しく向き合うべき理由
「働かないおじさん」という言葉を目にする機会が増えた。一方で、実際にミドルシニアの問題に悩む企業の話を聞くと、「本人が意図的にサボっている」というサボリーマン的な内容はごくわずかだ。「働かないおじさん問題」はどこから生じているのか、その本質について考察する。
